去年の誕生日は大して重要でもない任務で、いつも通り人を殺めた。一昨年の誕生日も任務だった。確かその前も任務に明け暮れていた気がする。そして今年の誕生日も又、大して重要でもない任務に就かされている。まあ、さして気にはしていないのだが、自分が生まれた日に人を殺めるというのはどうもやるせない。近付いてきた敵を倒しながら、らしくない考えだ、と笑いたくなった。


「鬼鮫、」
「鬼鮫さんじゃないですよ」


嗚呼、そうだった。今日は別任務に就いている鬼鮫の代わりに、こいつがパートナーだったんだ。誤って呼んでしまったからか、隣で顔を顰めている女を見る。こいつは最近入ったばかりの新米メンバーで、関わりは殆どと言っていいほどなかった。普段はサソリさんやらデイダラに構われている(遊ばれている)ため、喋ったことだって2、3回しかない。正直、名前すら覚えていなかった。悪かった、と素直に謝るとさっきとは打って変わってへらりとした顔で首を横に振った。


「気にしてませんよ。それだけ鬼鮫さんに馴染んでるってことですよね!」
「…いや、馴染んでいるわけじゃ」
「そっかあ、イタチさんは鬼鮫さんがそんなにす」
「気持ちの悪いことを言うな。誰にでも呼び間違えることはあるだろう」
「まったまたー」


照れなくてもいいんですよ、えへへ。と女は何を想像したのか気持ちの悪い表情で笑っている。あんな人間だか魚だかわからないような奴を誰が好きになると。ましてや俺はそういう趣味があるわけではないし。否定の意味も込めて睨みつけると「ごめんなさい嘘です冗談です」の三拍子で頭を下げた。…全くだ。


「あ、もしかして今、俺の目力なめんなよ!とか思いました?」
「………」
「ごめんなさい嘘です冗談です」


…、こいつは馬鹿なのか?今ならサソリさんがこいつのことを「アホ」と呼ぶ意味が分かる気がする。独り言のように俺の睫の長さについて語り出した女を横目に溜息を吐く。既に敵は全滅に追いやられ、足元には無数の亡骸が転がっていた。任務、完了。敵の数や腕は弱かったが、このパートナーのお陰で結構時間を食ってしまった。空は茜色に染まっている。これではアジトに帰る頃には日はすっかり暮れているところだろう。


「お腹空きましたねー。何か食べていきません?」
「俺は別に空いていない。早めに帰ったほうがいいだろう」
「何食べます?私蕎麦とか食べたい気分なんですよね」
「人の話を聞け」


駄目だ。誰だ、こんな上司の話も聞けないような馬鹿を組織に入れたのは。もう既に寄り道する気満々らしいパートナーは、蕎麦が食べたいとごねている。俺はどちらかと言うとラーメンの気分なんだが…って違うだろ。此処で無駄な金を使えば、後々角都に怒られてしまう。最近更にお金に口うるさくなったからな…一緒に居る飛段も苦労していることだろう。


「…今日は帰るぞ」
「えええ…じゃあもう少しだけこの村に居ましょうよ」
「腹が減ったんじゃないのか?」
「減りましたよ?」


…意味がわからない。任務終了した以上、この村に居る意味はない。日が暮れない内に森を抜けなければ色々と面倒だ。理解不能な言動に訝しげに顔を顰めると、女はへへへ、と又もや気持ちの悪い笑みを浮かべた。


「そろそろ、日が暮れてきましたね」
「…もたもたしているからだろう」
「えへへ」
「?」
「空ですよ、空」


行き成り空と言われても。疑問は消えないまま、つられて上を見上げると茜色だった空は次第に紺色に染まり始め、ぽつりぽつりと星が浮かんでいる。その中で、きらりと光った何かが流れていった。それにつられて雨の様に次々と藍色の空を伝っていく。…流れ星?


「お誕生日おめでとうございます、イタチさん」
「…は、」
「星。ロマンチックでしょ?」


星がプレゼントって言ってみたかったんです!えへへ!


…。本当訳のわからない馬鹿だ。まさかこんなクサいプレゼントを名前も知らない奴から貰うとは、な。あまりの衝撃に目を見開いた。当の本人は悪戯が成功した時の子供のような顔で「イタチさんってば目に星が映ってて、目力10倍ですよ!」と顔をのぞきこんでいる。それはお互い様だろう。


「それにしても、誕生日が任務って少し同情しますよ」
「…そうか?毎年のことだ」


まあ、今年は去年や一昨年よりは大分面白い誕生日になったが。無表情のまま再度空を見上げてみた。流石にもう空は黒に近くなっている。まだ今日を祝ってくれる人が居た。それだけで充分だ。ふう、と息を吐いて蕎麦でも食べに行くか、と呟いた。案の定目を輝かせたパートナーにくすりと笑いがこぼれた。










嬉しさと愛しさが混じり合うから。






100609 SHII
HAPPY BIRTHDAY ITACHI!!