部屋の中は思ったよりも綺麗でパッと見普通のホテルと大して変わりは無かった。よく見ると妖しい道具やら妖しいDVDやらがそこら辺に置いてあるのだが、それは見て見ぬふりをすることにした。嗚呼神様、どうして私はこんな所で正座しているのですか。どうして彼は先程から変わらぬ笑顔でこちらを見続けているのですか。何で何もしてこないんですか。いや、別に何かして欲しいとか思ってるのでは決してなくて。「魅せる」とかいう妖しい台詞を言ってのけ、それに足してこんな妖しいホテルに強引引きずりこんでおいて、部屋に入った途端何もしないって一体何を考えているんだこの男は。私は襲われるのかと思って身構えていたというのに。(身構えたところで何も効果はないのだが)ベットに座らせられた私は同じくベットに座って此方を凝視してくる視線に堪えられず目線を下に移す。


「あのさ、一応聞くけどアンタ処女だろ?」


は。何聞いてんだこの人。直球過ぎやしないだろうか。しかもこんな場所で名前も知らない女相手に言うことじゃない。っていうか名前も知らない女をこんなところに連れ込むんじゃない。私のなんとも言えない表情を読み取ったのか、「うん、やっぱりね」と何故か満足そうに頷いた青年。それがどうしたと言うのだ。処女で悪かったな。ふん。と言ってやりたい。だが私の口はチキンなので開いてはくれない。というよりどうせ何か言ったところでこの人は簡単に無視してしまうから意味はない。


「ちょっと待ってね」


今良いヤツ探すから。そう言ってぴょんとベットから飛び降りるとテレビの下にあった棚を探り始める。一体何を探すというのだろう。この男の行動は本当に読めない。暫くしてお目当てのものを見つけたのかソレを慣れた手つきでDVDプレイヤーに入れていく。…なんだか予想がついてきた。リモコンを片手にベットに戻ってきた彼はさっきよりも近くに腰をかけた。近い近い近い、怖い怖い怖い。思わずお尻で後方に逃げようと試みるが既に彼の腕は私の腰を捕らえて離さなかった。何だこの状況助けて誰か。


「そんなに怖がらないでよ、何もしないからさ」


一緒にDVD観賞してくれるだけでいいから、とリモコンの赤いボタンをポチリと押した。と同時に目の前のテレビから女の人の喘ぎ声と艶かしい映像が映し出される。えええ、ちょっと待て、只のDVDじゃないんかい。慌てて画面から目を逸らして隣を見ると笑顔の彼が「面白いでしょ?」と首を傾げていた。面白いも何もこれ絶対嫌がらせですよね。それとも新種のセクハラですか、どうなんですか。視線を画面に戻してみると先程よりも過激なシーンが映っていて気持ち悪くなった。何、この体制どうなってんの。しかもこの女の人手錠と目隠しされてるけどどうしたのこれ。せめてノーマルにして頂きたかった。


「足も縛ればいいのにね」


…ボソっと何か言ったよ。隣の変態がボソっと耳元で。例えるならば恋人に甘い台詞を囁くように。発した言葉は到底甘い台詞なんかじゃないのにぞわぞわと背筋が粟立った。危険危険危険だ。この人はいつもこんなことを言って女を連れ込んでいるのか。危険危険危険危険。「あり、無反応?」って私にどう反応しろと言うのだ。「はい、そうですね」なんて生返事したらきっと殴られる。かと言って「気持ち悪いんだよコノヤロー」なんて言ったら半殺しにされるか犯されるかはたまた無視されるか。私ってなんて不憫なんだ。っていうかこのDVDは何時になったら終わるんだ。寧ろ何時になったらこの男から解放されるんだ。止まる気配のない男と女の気持ち悪い行為をこれ以上観て堪るかと目を瞑るが、耳障りな喘ぎ声は頭に焼き付いて離れてはくれなかった。











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