※AV等のアダルト表現有り



信号待ちをしていた私に唐突に「道案内してくれない?」と声を掛けてきたのはにこにこと愛想良く笑う好青年だった。しかしこの青年には一つ問題点がある。問題点というより青年事態が問題だ。この一見人のよさそうに見える笑顔の裏に隠れた素顔を私は知っている。何故ならこの青年は私の通う学校の所謂「問題児」という輩だからだ。噂によればそりゃあもうどんな大人でさえ手の付けられない程の悪人だそうだ。不良という線を越えていると何処かの誰かが言っていた気がする。そんなとんでもないお方がチキンの私に向かって「道案内してくれない?」と小首を傾げている。正確には「道案内してくれないとやっちゃうぞ」と怖いくらい美しい顔で笑っていた。…これは絶体絶命の命の危機である。(もしくは操の危機)半ば反射的に首を縦に振ると青年は一層嬉しそうに笑った。


「君ならそう言ってくれると思ってたよ。ええと、此処らへんにラブホってあるかな?」


え、えええええ。ラブホですか。そういえば風の噂で過度の女好きとも聞いたことがある気がする。っていうかラブホの場所を普通私のような一般市民に聞くか?ラブホなんか行ったこともありませんよ!どうせお子ちゃまですよ!と彼には到底関係のない愚痴が喉まで出かかった。「…ねえ聞いてるの?」聞いてます。聞いてますからそれ以上近付かないで下さい、色んな意味で怖いです。まるでカップルがいちゃつく時の距離のような至近距離で嫌でも私の心拍数は上がる。(勿論色んな意味で)


「…ごめんなさい知りま」
「え?何?連れてってくれるの?うわあ嬉しいな、ありがとう」


い、言ってませんそんなこと。やっとのことで発した言葉をあっさり無視され口元がひくひくと痙攣した。どうすればいいんだ。意気揚々と歩き出した青年に尋常じゃない力でぐいぐい引っ張られ、覚束ない足取りで付いていく。…あの、私何も道案内してませんけど。嫌な予感が胸を過ぎったけれど口答えする勇気もなく人気の少ない路地に入ってしまった。周りを見渡すとそれこそピンクや黄色で彩られた妖しい看板が目に入る。
こんな所にラブホなんてあったんだーへえー。…じゃなくて。どうして私はこんな処に来てしまったんだろう。勿論説明するまでも無くこの男の所為だ。だがしかし、私は彼に「道案内を頼まれた」筈。なのに何故道を知らない彼に「連れてこられた」んだ?


「あり?…いつの間にかついちゃったね」
「いや、」
「いやはや助かったよ」


助かったって言うか、あの、私は何もしていませんけど。そう言ってしまいたいのに私の口はそれを拒否して開かない。つくづく私はチキンだなあと思う。まあ、とりあえず愛想笑いを返して「それじゃあ私はこれで、」と言ってしまえば一件落着だ。此処までの道のりはうろ覚えだけど根性でなんとかなるだろう。一刻も早くこの人から離れなければ。危険危険と脳内でランプがチカチカしている気がした。言うんだ私。これだけ言ってしまえば後は晴れて自由の身だ。


「それじゃあ私はこ」
「あ、そうだ。お礼に面白いもの魅せてあげるよ」


人の話を聞けえええ。決死の覚悟で言った言葉がこうも又簡単に無視されるなんて。私の小さなプライドはズッタズタのボロボロだ。それはまるで使い古された可哀想なカピカピの雑巾のように。それにしてもこの人は今大変なことを言った気がする。確か「お礼に面白いものを魅せてあげるよ」と。魅せるって何だ。完璧に彼は「見せる」ではなく「魅せる」と言った。少なくとも彼は「魅せる」と。どどどどういうことですか。目を見開いて必死に首を横に振ると彼はどういう了見か「じゃ、行こうか」と笑顔は崩さぬまま再び私の腕を引っ張る。人の話を聞けええええ。御願いだから聞いて下さい、いや、見て下さい。


「どうしたの?青ざめちゃって。おなか痛いの?もしかしてあの日?」
「いや違」
「だとしても問題ないよ。そういうのもたまには新鮮だし」


だから違うってば!何なんだこの人!そういうのって何、どういうのですかコノヤロー。生憎ヒールを履いていた私は巧く踏ん張れず、ズルズルと道に跡を作っていく。ヒールが磨り減っていく音を聞きながら彼の背中で揺れるピンク色の髪を見ていたら自然と視界が潤んだ。嗚呼私はこの男によって汚されるんだ。お父さんお母さん未来の旦那様ごめんなさい。私の体は汚れます、ごめんなさい。諦めて抵抗をやめた私に青年は振り返ってにっこりと笑った。













100516
このシリーズは終始ラブホ、AV等が出てきます。←