嫌い嫌いも好きの内。
何時か誰かがそんなことを言っていた気がするわ。それは昔の友人だったのか、はたまたブラウン管の中から聞こえた言葉だったか。そんなことは別にどうでもいいの。嫌い嫌いも好きの内?何処をどうやって考えたら好きなんて思えるの?私は嫌いなものは絶対に好きになれないわ。小汚い路地裏と胡散臭い広告と真っ白いマッシュルームとあの男だけは絶対絶対絶対絶対絶対好きにはなれない。特にあの新宿の折原臨也とかいう男、どうかしてるもの。…どうしてそんなに嫌いかって?それはね、あのいけ好かない性格よ。前に何度か仕事絡みで会ったことがあるのだけれど、本当気に入らない男だったわ。さも自分が全てを解りきっているとでも言うような物言いでベラベラと調子のいいことばかり喋るの。そうね…何ていうか、イカれてる。途轍もなく途方もないくらいに頭がぶっ飛んでる感じ。…え?どうして今そんな話をするかって?其れがね、今日嫌なことがずっと続いているのよ。仕事で小汚い路地裏を通らなきゃいけなかったし、家のポストには胡散臭い広告が何時もより多く入っていたし、それに古い友人からお土産に真っ白いマッシュルームの缶詰を貰ったの。高級品だって言ってたけどそんなこと言われても嫌がらせにしか思えないのよね。ね、嫌なこと続きでしょ?ほら、よく「嫌なことは連続して起こる」って言うでしょう?だからあの男にも遭っちゃうんじゃないかと思って。心配で心配で居てもたっても居られなくて。御免なさいね、人の嫌いなものの話なんか全然面白くないでしょうに。え?そんなことない?有り難う。優しいのね貴方。














嫌い嫌いも好きの内。
何時か誰かがそんなことを言っていたね。それはブラウン管の中で知ったかぶる髪の少ないオジサンでもそこら辺の流行に五月蝿い女子高生でも、俺にとってはどうでもいいんだけど。嗚呼君もどうでもいいだろうね、ハハ。それよりも俺はそんな言葉を信じて「嗚呼、私はあの人が嫌いだけど本当はそれも好きの内なのよね」とか「嫌い嫌いも好きの内…?笑わせるな。嫌いなもんは嫌いなんだよ」なんて嘲笑う奴等が醜くて仕方がないよ。結局は信じるも信じないも相手の自由なのに。相手が何を考えているかも解っていない癖にね。だけどね、俺はそんな奴等が嫌いじゃないんだよ。寧ろ愛してる。醜くて無様で信じやすい人間が大好きなのさ。…ん?そういえばこの間俺のことを心底嫌っている人と会った?へえ、そりゃ残念だね。俺の方はこれ以上無い位に愛してるっていうのに愚かな奴等はそれに応えてくれないんだ。いや、堪えてくれないのかもね。それって物凄く哀しいだろう?俺の片思いってヤツだ。…え?その人は俺にもう一度遭うんじゃないかって心配していたって?…あ。それってもしかすると先日仕事絡みで会った女のこと?俺のことを周りからも一目瞭然な程に毛嫌いしているマッシュルームと胡散臭い広告と小汚い路地裏が心底嫌いな女。…何で其処まで知ってるのか疑問に思っている顔だねそれは。情報屋をナメて貰っちゃ困るよ。あの子には少しばかり興味が湧いたから調べたんだ。別に深い意味はないけど暇潰しさ。あの子は相当愚かな子でね。俺のことを物凄く途方もないくらいに大嫌いらしいんだけど此処だけの話、実は好きらしいんだ。嗚呼、自惚れたり自意識過剰な訳じゃないよ?列記とした情報さ。是こそ「嫌い嫌いも好きの内」ってヤツだろ?信じるも信じないも君の自由だけどね。






















まあ、本人から聞いた情報よりも胡散臭い男の話を信じてしまう君も相当な愚か者だろうけど。







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