人間っていうのは途轍もなく残念ないきものだね。そう独り言のように呟けば隣に居た飛段に御前も人間だろ、と間抜けた声で返された。



「そうそう、だから尚更。惨めだよなあって」
「惨め?なんだそりゃ」



惨めって言うのは見ていられないくらい哀れなことを言うの。無垢で無知な飛段に物知りぶって教えてあげた。もしかしたら哀れなんて言葉も知らないかもしれない。まあ知らなくても、飛段という存在には必要のない言葉なのかもしれないけれど。



「御前って惨めなのか?」
「うん、凄く」



飛段から見たら凄く、凄く。訳の分からないといった様子で首を傾げる飛段に意味深に笑ってみせた。叶わない想いほど惨めなことってないのよ。例えるならば今の私のように。不意に飛段の制服のポケットから愉快な着信音が鳴って沈んだように見えた空気が一瞬晴れる。だけど晴れたのはきっと飛段だけで、私は更にどん底に突き落とされた気分になった。分かっている、分かっているのにやっぱり悲しい。嗚呼駄目だ。私惨め。携帯の画面も見ずに電話に出た飛段はどことなく嬉しそうだった。暫くしてパチンと2つ折の携帯を閉じた飛段と目を合わせたくなくて反射的に下を向く。



「悪い。急用出来ちまってよォ、また今度奢る」



下を向いたところで何も変わらないことは知っていた。心境を悟られない様に笑顔でじゃあとびっきり美味しいケーキね、と笑顔で頷く。もう何回作ったか分からないこの表情は今だに慣れてはくれなかった。しょうがねぇな、と私とは違った本物の表情で笑った飛段に少しだけ嫉妬した。いや、飛段に嫉妬したんじゃなくて、飛段の彼女にかもしれない。



「じゃ、また明日ね」
「おう」



ひらりひらりと左手を上げて足元軽やかに私とは別の方向へ走って行った飛段の背中は赤く染まり始めた空に妙に馴染んでいた。別に感動した訳でも寂しくなった訳でもないのに自然と視界がぼやけた。それは水彩で描かれた絵に誤って水を零してしまったようにも見えた。どうせ私は絵の中に参加することだって出来ない観客なのだ。調度溜息を吐いたとき、ポケットで携帯が震えた。メールの宛先は飛段からでその内容は「やっぱりケーキはお金がないから無理だ」という途轍もなくどうでもいいことだった。返信どうしようかなあ、と惨めだと知っていながら自ら片思い続行という道を選んだ私は本当に残念ないきもので、それで居て愛に生きるいきものなのだ。











愛に生きるいきものです


哀れで哀れで哀れな、











100419
企画提出