目を開けたら目の前にサソリ君の顔があった。あれ、おかしいな。私は寝不足という理由を付けたさぼりで、保健室のベッドに寝ていたはずなのに。何で天上じゃなくサラサラの赤い髪が視界いっぱいに広がっているんだろう。



「え、うわっ」
「…チッ…起きたのかよ」



つまんねぇな、と何故かキレられそうになった。…いや、起きちゃ悪いのか。何でサソリ君が私の上に乗ってるんだ。まさか私を襲おうとしたんじゃ…といきなり不安になって目線だけで制服を確認する。…よかった。服はちゃんと纏っている。それにしても何の訳があってこのような状況になってしまったのか不思議でならない。サソリ君に寝込み襲われるようなことをした覚えもないし、第一この男とはクラスも違うし、あまり話したことだってない。唯一の接点は私の友達の彼氏ってことぐらいだ。



「…あの、」
「何もしてねえから安心しろ。キスはしたが」



…キスはしたが…だと?平然と言い放ったサソリ君に唖然と目を見開いた。何もしてないって、十分してるじゃないか!しかもあろうことかファーストキスを友達の彼氏に奪われるとは(しかも寝込み)…なんだか泣きたい気分だ。私の意思はないとはいえ、彼女に酷いことをしてしまった。うなだれる私を見て、さも自分は悪いことをしていないとでも言うように欠伸をするサソリ君を心底恨んだ。有り得ない、彼女じゃない女にキスするなんて。



「最低…」



最低最低最低、サソリ君も、私も。涙目になりながら呟いてみたけれど、何を言う訳でもなく只平然と私を見据えるサソリ君。有り得ない、罪悪感というものがこの男にはないのか。ぼやけた視界に滲んだ綺麗な赤色はさっきから微動だにしない。その態度にイラついて白いシーツを握り締めた。



「好きなんだよ…お前のことが、」



やっと口を開いたかと思えば一番聞きたくない台詞が耳を掠めた。態度とは裏腹に苦虫を噛み殺したような声で唸るように呟いたサソリ君。何て最悪な目覚めなんだ。目の端から一滴雫が流れて視界を妨げるものはなくなった。澄んだ視線の先に移ったのは悔しそうに俯く赤い髪で、さっきまでの態度は私の思い違いだったらしい。私だって本当は。心の奥で何かと何かがぶつかった気がして唇を噛み締めた。




最低最低最低、私もサソリ君も、














100324
この感情は捨てたはずなのに貴方がそんなこと言うから、