いってくる、と次々に出て行く仲間達にいってらっしゃーいとひらひらと手を振った。今日は私以外の暁メンバーは任務だ。さっきまで賑やかだったアジト内は打って変わって静まり返り、耳に届く音はテレビからの笑い声と時計の音だけとなった。今日は一日平和に過ごせそうだ。ぐんと背筋を伸ばすと自然と欠伸が出た。…とりあえずお昼くらいまで寝てようかな。玄関から遠い一番奥の部屋の私はいつもより軽い足取りで自室へ向かった。


(あれ、飛段の部屋の扉、開いてる)


ペタペタと歩いていくと、飛段の部屋の扉が少し開いていることに気が付いた。閉め忘れたのかな。一室一室に鍵がついている私たちの部屋は、出かけている間のプライバシー保護のためだろう。それをかけ忘れる所か扉を閉め忘れるだなんて、なんとも飛段らしい。しょうがないから閉めてやろう、とドアノブを手に取ると隙間からちらりと部屋の中が見えた。…って布団がもり上がってるんだが。まさかね、と思ったけれど念のため確認することにした。そっと部屋の中に足を踏み入れ、ベットに近付く。布団から出た左足と微かに聞こえる寝息に眉を潜めた。


「…飛段、居たんだ」


っていうか飛段も任務じゃなかったっけ?私の記憶が正しければコイツの相方の角都は朝一番早くに出て行った。てっきり飛段も角都と一緒に任務に向かったとばかり思っていたのに。仲間割れでもしたのかな、と想像を膨らませたが、どうせ飛段が寝過ごしたことに角都が気付かなかったのだろう(角都はおじいちゃんだから物忘れが酷いと思われる)。きっと今頃気付いてアジトに戻ろうか考えている所だろうな。角都の頭を抱える姿が目に浮かんだ。


(さて、部屋に戻るか)


変態飛段が起きる前に自分の部屋に戻って寝てしまおうと考えた私は、そろりと気配を殺してベットを離れる。が、それは布団の中からにゅっと伸びてきた腕によって阻まれた。


「うわっ」
「色気のねぇ声だな」
「お、起きてたの?」
「今起きた」


ばさりと布団を退けて、銀色の髪をかきあげる飛段。びっくりした。気配は完全に消してたはずなのに、やっぱりこういう所はS級犯罪者の忍なだけある。今だ強く握られた腕を離せと言わんばかりに振ると口角が少し上がった用に見えた飛段はぐいっと逆に力を込めて引っ張った。何するの、と言う前に既に私の体はベットの中にダイブしていた。しかもそこは、飛段の逞しい腕の中。


「…離せコラ」
「そう睨むなって。逃げようとするんだから、しょうがねえだろ?」


そりゃ逃げるに決まってるでしょうが。万年発情期のコイツと2人っきりの部屋になんか居たら妊娠してしまう!(只でさえアジト内には助けてくれる人も居ないし)


「っていうかアンタ、今日任務じゃないの?」
「ああ?任務…?そんなもん角都1人でやれんだろ」
「人任せな!」
「いいだろ別に、1日くらい。それよりお前は何で此処に居るんだよ」


もしかして寝込み襲いに来たのか?ニヤリと厭らしく笑う飛段の顎にアッパーを食らわせ、扉が開いてたんだよ!と指差しせば、そういや昨日鍵かけるの忘れてたかもしれねえと顎を擦りながら言った。かもじゃなくてそうなんだよ馬鹿。っていうかいい加減この手を離して欲しい。半裸状態の飛段(変態)に抱きしめられているこの状態は正直言って心臓に悪い。顔には出さないようにしているけれど、男慣れしていない私の心拍数は急上昇していた。このままいたら飛段にまで伝わってしまいそうで怖い。


「…襲いてェ」
「…は?…っておい!何処触ってんの馬鹿!」


やんわりと脇腹を撫でられ思わずビクンと体が跳ねる。この変態!そんな私の反応を楽しむかのように耳元で喋る飛段。そんなことされたら嫌でも顔に熱が集まってくるのがわかる。だっ誰か!助けて!心の中で叫んだ私に応えるように玄関から「飛段!」と叫ぶ角都の声が聞こえた。…助かった…。頭の上で小さな舌打ちが聞こえたので大声で角都を呼んだ。


「お前…飛段と何やって…」
「角都聞いてよ!飛段が、」
「おい角都空気読めよなァ!」
「…まさかお前たちがこんな関係だったとは知らなかった。すまん」
「え、何言ってんの、これは」


何を勘違いしたのか、角都が深々と頭を下げている。いやいや、君は寧ろ救世主だよ!慌てて弁解しようと口を開くが、それは大声で笑う飛段によって掻き消されてしまった。っていうかこんな関係ってどんな関係だ!こんな変態と関係なんか持ちたくないわ!


「続きは夜にでもやってくれ。とりあえず任務はやって貰うぞ」
「夜!?だからちが」
「おう、そのつもりだ。じゃあパッパと任務終わすか」
「行くぞ」
「ちょ、待って角都!」


私の言葉も虚しく足早に部屋を去っていった2人。唖然とその後ろ姿を見送った私は暫く主の居ない飛段の部屋で頭を抱えていた。…終わった。せっかくの休みだというのに、平和どころか不安と危機感でいっぱいだ。今度こそ静まり返ったアジトの中で一人、どうか良からぬ噂が広がりませんようにと願った。








渦巻く心境と平和な休日


(ただいまー!飛段とデキてるって本当か、うん?)
(…あの野郎…後で殺す)




100216