「いらっしゃいませー」


思ったよりも意外と遠かったコンビニを恨めしく思いつつ、店内へ足を踏み入れた。店内は早朝だからなのか、それとも流行っていないからなのか、店員と私と立ち読みしている男の人だけだった。…ってアレ?


「…角都さん?」
「ん?あ、…名無子、」


聞き覚えのある声だなーと思ったら。案の定此処の店員の格好をしてせっせと掃除をしていた角都さん。大きな図体にサイズが合っていない制服はピチピチだった。目のやり場に困るんだが。


「此処でバイトしてるんですか?」
「ああ、まあ週3日程だけどな」
「へぇ…」


角都さんがバイトとか何か意外だな。しかもコンビニっていうありきたりな。そういえば角都さんは何歳なんだろう。学生ではないようだし、


「ところでお前は買い物か何かか?」
「あ、はい。朝ご飯買いに来たんですよ。デイの分も一緒に」
「…何!?お前等もうそんな関係に」
「なるわけないでしょう。カクカクシカジカがあって何故か家でゲームすることになったんですよね」
「そうだったか。お前も大変だな」


超大変ですよ、と苦笑いを浮かべると、角都さんが何か思い出したように目を開いた。…なんとなく嫌な予感。


「これも何かの縁だ…お前に一つだけ頼みたいことがあるんだが」
「…なんでしょう」
「アレを連れて帰ってくれ」


眉間に皺を寄せて指差す角都さんの視線を辿ると、見覚えのある男が雑誌コーナーで破廉恥な本を片手にニヤニヤと笑っていた。時折「ゲハハァ!こりゃスゲェ!」と鼻を押さえながら大声で叫んでいる男、それはデイの睡眠妨害の元凶である飛段さんだった。


「残念ですが私にそんなめんどくさいこと出来ません」
「頼む!アレが居ると客が何故か入らなくてな…このままじゃ俺はクビだ」
「…無理です」
「そう言うな…俺を救うと思って、な?」


パン、と顔の前で手を合わせて縋られ、一歩後退した。いや、そんなこと言われましても…あの変な人をどうやって連れて帰ればいいんだ。帰り道中ずっとあの怪しげな宗教に勧誘され続けたら気がおかしくなりそうだ。角都さんの気持ちも充分に伝わるけど…と再度断ろうと口を開きかける。だがそれは私より一息早く述べた角都さんの言葉によって遮られた。


「じゃあ…アレを連れて帰ってくれたら今日の朝飯代は俺が持ってやろう」
「…」
「これでどうだ?」
「…しょうがないですね、今日だけですよ」


…釣られてしまった。あっけなく金に釣られてしまった。やはり人間最終的には現金な生き物なのだ。断じて私だけ、というわけではないと信じたい。そう言ってくれると思っていた、と安心したように溜息を吐いた角都さんに何も言わずに微笑んだ。帰り道なんて大して長くないし、大丈夫だよね…きっと。