「お前昨日、逃げただろ」


あの後お前のせいでオイラ大変だったんだぞ、うん!と朝一番にわざわざ文句を言いに来たデイ。その綺麗な顔には酷い隈が出来ていて思わず笑いそうになったけど、また引っ叩かれそうだったから我慢した。


「ごめん。眠かったからさ」
「オイラだっていつも9時に寝るようにしてるのに、昨日は1時だったんだぞ!」


お前は小学生か。っていうか飛段さんあれから1時までデイを勧誘してたのか。どんだけジャシン教とやらに執着してるんだろう。とりあえず怒りが収まらないらしいデイを片付け終わったばかりの家の中に招き入れ、まだ歯を磨いてなかった私は歯ブラシを取りに洗面所に向かった。


「…殺風景な部屋だな、うん。多分旦那より家具少ねーぞ」
「そう?」
「うん、とても女の部屋とは思えないな、うん」
「失礼な奴だな」


家具なんか必要最低限のものしか要らないだろう。というより、家具を買うお金は生憎持っていない。物珍しそうにキョロキョロ部屋中を見回すデイはやがて何か見つけたのか、感動したような声を上げてこちらを振り向いた。心なしか目がいつもより輝いている気がする。


「名無子…マリオカー○持ってたのか、うん?」
「え、うん。Wiiのなら」
「スーパーマ○オブラザーズも持ってるのか、うん?」
「ああ、Wiiのならね」


そう私が答えるとより一層目を輝かせたデイ。どうしたんだ。マリオのことばかり聞いてきて。もしやマリオ好きなのか…?そう思った私の考えは当たったらしく、オイラもやっていいか?と少し興奮気味に身を乗り出してきたデイ。若干引きながらどうぞと苦笑いすると飛び跳ねて喜ばれた。どんだけやりたいんだよ。


「まさかこんなところでマリオ様を拝めるとはなー…予想外だ、うん」
「私もまさかデイがこんなにマリオで興奮するとは予想外だよ」
「ばっか、お前。マリオは最高に面白いんだぞ、うん。やったことないけど」
「やったことないんかい」


どこぞのお笑い芸人風にデイにつっこんでみたが、生憎デイはマリオカー○の説明書を読んでいたらしく全然気付いていなかった。


「あ!そうだ。旦那も呼ぼうぜ、うん」
「…え、サソリさん?」
「そうだぞ。折角のマリオパーティーなんだからな、うん」


既にデイは私の返事を聞く前に携帯を耳に当てていた。マリオパーティーって何だよ。っていうかサソリさんを呼ぶのは別にいいけれど、今は早朝だしまだ寝てると思うんだけど。それをデイに伝えると、あ、そうだった、と慌てて携帯を耳から外した。「そういえばサソリの旦那は低血圧だったんだ。危ねえ、うん」とデイは物凄く焦っていた。…馬鹿め。


「んーじゃあしょうがないから2人でするか、うん」
「えぇ」
「嫌そうな顔すんなよ、うん」
「私まだ朝ごはん食べてないんだけど」
「オイラも食べてないぞ、うん」


昨日の夜も忙しくてろくに食べていないから、お腹の中は空っぽだ。段々目が覚めてきて気持ち悪くなってきた。この状態でマリオカー○なんかすればきっと吐くだろう。


「…コンビニ行って来る」
「朝飯買いに行くのか、うん?」
「うん。あ、デイのも買ってくるよ」
「んじゃ適当に買って来てくれ、うん」


混ぜご飯以外ならなんでもいいと言って説明書から目を離さないデイに部屋を任せて上着を羽織った。近くのコンビニだからスウェットでいいよね。寝癖のついた髪を手櫛で整えサンダルを履く。いってきまーすと小さく呟くと、聞こえていたのか、奥からいってらっしゃーいとデイの声が聞こえた。