「んー…次は飛段のとこに行ってみるか、うん」
「ひだん?」
「おう。でもあいつ居るかわかんねーからな」


気を取り直して次の“飛段”さんのところへ向かう私達。“飛段”さんは108号室らしく、私の隣の部屋の住人らしい。


「飛段なら今は出掛けているぞ」
「あ、角都」
「!!」


びっくりした。いきなり横から声が飛んできたものだから肩が飛び跳ねてしまった。今度は落ち着いて声の主に振り返ると、黒い肌をした背の高い男の人が居た。どうやら彼も此処の住民らしくお前が例の奴か、と言われた。


「俺は109号室の角都だ」
「今日越してきた107号室の山田名無子です」
「名無子、角都は大家が居ない間、家賃やら色々取り締まる係りなんだぞ、うん」


ああ、なるほど。この人が大家さんの代わりなんだ。よろしくお願いしますと頭を下げるとよろしくな、と微笑みかけてくれた。見た目は少し怖いけどいい人そうでよかった。


「あ、そうだ。飛段はどこに行ったんだ?うん」
「女のところにでも行ったんじゃないか?」
「お、女?」
「嗚呼、飛段は女遊びが激しいからな」


女遊びだって…!?角都さんの言葉によからぬ考えが私の脳内に広がっていく。うわーなんかヤダな。名無子も襲われないように戸締りはちゃんとしとけよ、なんて笑う角都さん。冗談なのか本当なのかよくわからないのでとりあえず冗談だと思うことにした。(でもやっぱり戸締りはちゃんとしておこう)っていうか、この階の部屋の人には一通り挨拶に回ったけれど、何故か女の人に会っていない。サソリさんにデイダラ、飛段さんに角都さん、皆立派な男の人だ。もしかして…此処に住んでいるのは男の人だけとか?


「大丈夫だぞ、うん。一応女は1人居る」
「え」
「声に出てたな」


うそ、ほんと。真顔で返された返事に少し恥ずかしくなった。声に出てたとか痛い子じゃないかもう。まあいいけど。それよりデイが言った女の人が気になる。よかった、一人じゃないんだ!


「1階に住んでる人だよね?」
「そうだな。それじゃ、先に小南に会っておくか、うん」
「それがいいだろう。多分あいつはまだ居るだろうからな」


ほら行くぞ!とデイに腕を引っ張られ、角都さんにお辞儀をして階段を下りる。どんな人なんだろう、と期待に胸を膨らませた。そんな私にデイはあんまり期待すんなよと言葉を投げかけ、102号室の扉の前で足を止めた。ちょっと!いきなり止まるから鼻ぶったでしょーが!


「此処だ、うん」
「KONAN…あの…見た目は大人頭脳は子供の?」
「ちげーよ。それ只の馬鹿だろ、うん」


ぱこんと頭を叩かれ若干涙目になった。思いっきり叩きやがったなコイツ…!ピンポーン。え、ちょ、待て!おいコラ何勝手にインターホン押してんだ!まだ心の準備が…ってアレ、これさっきもあったよね?私が一人あたふたしていると静かにドアが開いた。


「…はい」
「小南!挨拶に来たぞ、うん」


え…なんだこの人…めちゃめちゃ可愛いじゃないか…!ドアの向こうから現れたのは私より少し背の高い綺麗な女の人だった。え、モデル?って言いたくなるほどの細さに仰天する。このアパートには美しい人が多すぎると思う。化粧品とか何使ってるんだろう、と自己紹介も忘れて見入っているとまたもやデイに頭を叩かれた。


「いでっ」
「お前なぁ…早く挨拶しろよ、うん」
「(あ、忘れてた)今日越してきた107号室の山田名無子です、是非仲良くして下さい!」
「何か俺らの時と若干態度が違うよな、うん。まあいいけど」
「小南よ。女同士仲良くしましょうね。気軽に小南って呼んで?」
「うん!ありがとう」


若干鼻息が荒い私に美しい笑顔を見せてくれた小南。こんなに可愛い子がこんな男だらけのボロアパートに住んでてもいいのだろうか。って…あれ…?こんなに綺麗だったっけこのアパート。ふと小南の後ろに見えた家の中は他の部屋とは全く違う、どこぞのホテルだと言いたくなるような家具で飾られていた。壁も床も大理石で出来ているように見えるのは私の気のせいだろうか。


「そろそろ次行くぞ、うん」
「あ、うん。それじゃ、」
「またね、名無子」


結局装飾のことは聞き出せなかったが、とりあえず目の保養になった。今度何の化粧品使ってるのか聞いてみよう。