「此処の人って皆いい方なんですか?」
「…いや、っていうかお前その敬語やめろよな、うん。オイラのことも好きに呼んでいいぞ」
「あ、うん。じゃあ省略してデイで」
「微妙だな、うん」


歩き出したデイに質問したのはいいものの、軽く流されてしまった。っていうかいや、って言いかけたよね?やっぱりアパートとかは色んな人居るし…怖い人とか居たらどうしよう。


「まあ今から行く家の奴はめちゃめちゃ怖いから覚悟しとけよ、うん」


オイラのお隣さんなんだけどなー、と何故か1テンポ遅れて帰ってきた質問の答えに絶句する。うっそーん。長年住んでいるらしいデイが怖いなんて言うってことはやっぱり…殺人的怖さとか?まさかの殺人鬼?嘘でしょう、それはないない。自分自身に言い聞かせるように心の中で葛藤している私を横目にデイが呟いた。


「此処だ。今の時間帯は多分居ると思うけど」


え、まだ心の準備が!青ざめながらデイの見ている方を見るとドアの隣の表札に『105 SASORI』と書いてあった。さそり…?なんとも毒々しい名前ですね。とてつもなく不安になってきたよ!そんな私の気持ちも知ってか知らずかピンポーンと既にインターホンを鳴らしているデイ。ちょ、てめー何勝手なことしてんだと口を開きかけたが、それはガチャリと開いたドアによって遮られた。まだ心の準備がああ!


「…何の用だ」
「旦那!こいつが例の引っ越してきた奴だぞ、うん」
「殺さないでお願いします何でもしますから」
「おい、それはいいが何言ってんだこいつ」
「…」


…ん?異様な雰囲気に閉じていた目をそっと開ける。…え、美少年?開けた視界に映ったのは赤い髪をしたこれまたデイに負けず劣らずの美少年。想像していた此処の住人とは遥かにかけ離れた容姿をしていた“サソリ”さんはこちらを見て怪訝そうに眉間に皺を寄せていた。


「…こほん。は、初めまして!今日越してきた107号室の山田名無子です」
「今の出来事なかったことにしたよコイツ」
「…サソリだ。宜しく」
「旦那もそこスルーするのか、うん」
「ちっちゃいことは気にしちゃダメだよ」
「それでいいのか」


なんだ、全然いい人じゃないか。ツッコミ炸裂のデイにこっそりそう言ってみると、お前はまだわかってないんだと言われた。それはもしかしてこの美形の裏側は素晴らしく悪だと言いたいのかい?まじまじとサソリさんの顔を見つめてみるが到底悪い人には見えない。


「…俺の顔に何かついてるか?」
「え!別に何も」
「そうか。まあ何かあっても絶対俺のところには来るなよ」


いやいや普通逆じゃないか?絶対とか付けられてるし全拒否されてるよ私。軽くショックをうけつつも、バタンと言うだけ言って閉じられたドアとデイを交互に見た。デイによれば旦那はあーゆう奴だからしょうがないらしい。気を取り直して次の奴んとこ行くか!とさっきと変わらず楽しそうな笑顔を見せるデイに何かあったらデイのところに行くね!と伝えると、いや、来るなと拒否られた。なんでだコラ。