目の前に佇むキレイとは言い難い小さすぎるアパート。いや、寧ろ汚い。ところどころにひびが入った薄汚い壁や錆びた階段、それに加えて日が当たらない薄暗い場所に建てられたそれに私の足も少し止まる。家賃が安いうえに学校から近いという理由でここに引っ越すことにしたのはいいものの、やっぱりこの外見はちょっと…ね。それに前に様子を見に来たときよりも陰気臭さが酷くなったと思うのは気のせいなのだろうか。
まあ今更どうこう考えても、もう荷物は部屋に届いているだろうし。手続きもちゃんと済ましちゃったし。あ、大家さんに挨拶しにいったほうがいいのかな。部屋に入るのになんとなく気が引けた私は先に大家さんに挨拶をしに行くことにした。たいして荷物の入っていない鞄を持ち上げ早々と前へ踏み出す。と、同時に壁に貼り付けてあったくすんだ白い紙が目に飛び込んできた。え、何だろうアレ。なんとなく気になるのでまじまじと見てみるととんでもないことが書いてあった。
『旅に出ます(笑) 探さないで下さいお願いします勝手にやってなさい。あ、でも壁とかあんまり壊さないでね。 by偉大な大家様』
…なんだって?
もう一度言います。なんだって? 旅に出ますってお前…ふざけんなよどうすんだよ。まあ私は別に暮らせればそれでいいんだけど、家賃とかどうするんだろう。困るのは君じゃないのかな大家君。それとも無料で何でも好きにやっちゃっていいよ!的な感じ?
「…もういいや」
段々考えるのがアホらしくなってきた私は張り紙を無理矢理剥がし、びりびりと破き捨てた。破いた理由は(笑)にムカついたからです。気を取り直して自分の部屋に向かう。階段を上る途中でネズミの屍骸とか色々見つけちゃったけど見てみぬふりをした。ホントは凄く気持ち悪かった。っていうかそんなのどうでもよくて、107号室…はここか。ガチャリと鍵を開けると中は予想通り薄汚い玄関で帰りたくなった。(とは言うものの帰るところは此処だ)
「なぁ」 「ん?」
ふいに後ろから聞こえた声に振り返る。いつのまにいたのか、開け放たれたドアにもたれかかっている金髪の青年がこちらを見ていた。逆光で顔はよく見えない。んー…と、君どなた?
「お前誰だ、うん?」 「(うん?)…今日越してきた者ですが」 「ああ!そういえば昨日飛段が騒いでたな。お前のことだったのか、うん」 「(…うん?)あなたこそ誰ですか?」
うんうん一人で言っている金髪青年に向き直り、体制を整えるとようやく青年の顔が見えた。こりゃ驚いた。凄く綺麗な顔立ちをしていらっしゃる。
「オイラはデイダラだ。お前のお隣さんだぞ、うん」 「あ、そうなんですか。私は山田名無子っていいます。これから宜しくお願いします」 「宜しくな、うん」
あ、笑うともっと可愛らしい。太陽の光に照らされた金髪の髷(?)が輝いて目がチカチカする。お隣さんがこんなにイケメンとは私ったらついてるかもしれない!ちょっと暮らしていける希望が出来たので色んな意味で安心した。そうだ、荷物を置いたらこのアパートの人たちに挨拶に行こう。ご近所付き合いは大切だしね!
「名無子、まだ皆に会ってないんだろ?」 「はい」 「だったらオイラが案内してやるよ!うん!」 「(案内?)え、でも…迷惑じゃないですか?」 「丁度オイラも作品作るのに飽きてたところだから大丈夫だ、うん」 「(作品?)じゃあ…お願いします」 「任せとけ!」
色々疑問はあったけれど、なんだかとても楽しそうだったので良しとしよう。めんどくさいのでダンボールだらけの部屋にポイっと軽い荷物を投げ捨てたらデイダラさんに、そんなに乱暴に扱うと床が抜けるぞと言われた。抜けねーよ。これだけで床が抜けたらどうやって暮らしていけというんだ。この人、かっこいいけどちょっと抜けてる人なのかもしれない。
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