魔法少女 | ナノ

「あの後分かったのだけれど」
帝国学園三人組との出会いの、その翌日。いつものように学校と部活を終え、最早向かう事を義務づけられたも同然な理事長室で、昨日と1ミリも変わらない瞳子の表情を三人は見る。

「秘伝書から受け継いだ魔法は、思いの外強力すぎたようだわ」
「あのミサイルみたいなペンギンが技無しで吹っ飛んだんですが」
「それ程の力をあなたたちだけの力で発動させるのは難しかったみたいでね、バッジが自らイナズマシンボルのエネルギーを吸収して魔法発動を助けたみたいなの」
「イナズマシンボルってそんな力があるんですか!?」
「人の強い思いが集まる所には不思議な力が宿るでしょう。神社とか墓地とかね。イナズマシンボルの場合は、平和への願いの力が宿っているわ」

瞳子の言葉に、あの時宵闇の中光っていたイナズマシンボルを思い出す。
「じゃあ、俺達が魔法を使うにはイナズマシンボルが近くにないと駄目なんですか?」
「必ずしもそうとは言えないけれど、今の内はとりあえずね。でも一度魔法の感覚を覚えたなら、徐々に自分の力だけで使う事ができるようになるはずよ」
円堂の問いに、瞳子ははっきりとそう言ったが、次の瞬間彼女の口から出た言葉は、三人の予想を裏切り爆撃並の衝撃を与えた。

「で、変身後の姿はどんな感じかしら」



「俺もう人生リセットしたい…」
「ドンマイだ風丸…もう何言ってもフォロー仕切れないや…」
「いっそ開き直るのも手かもしれないぞ」
瞳子の前であの恥ずかしい変身台詞を言わされ、尚且つ女装姿を見られた風丸は心身共にぐったりとして校庭に向かう。
瞳子は対エイリア組織の集まりがあるらしく、指導を別の人に頼んである、と言った。何でも、このエイリア騒ぎで全国の蹴球魔法の使い手が東京に急遽集められ、影でエイリアと戦っているらしい。そのうちの一人に、新人三人の魔法指導を依頼してあるとの事だ。
全くもって非現実的な話だが、三人が校庭に着けば、既にその人物はそこに立っていた。その影は見たことのある、髪の長い――

「佐久間!?」
「源田もいるぜ」
待っていた人物は、昨日出会い頭にいきなり攻撃を受けた佐久間だった。少しだけ不機嫌そうな表情は昨日と変わらないが、僅かに柔らかなそれになった気がする。
「お前が俺達の指導を?」
「頼まれたからには役目を全うしないと、お叱りがくるんだよ。ただお前らには元からでかい力と才能があるみたいだからな、とりあえず俺の攻撃を片っ端から受け流して、技を出すことに慣れてもらう」

ツンとした態度は変わらず、佐久間はほぼ一息で教導内容を言いきったかと思うと、右目の眼帯に触れて叫ぶ。
「魔力解放、『皇帝ペンギン』!武装形態!」
短い閃光の後、途切れたコバルトグリーンの光の中からは、先ほどまで着ていた帝国の制服を元にしたような深い緑の強化服を纏った佐久間が現れ、白い手袋に包まれたその右手を高く上げた。

「皇帝ペンギン…」
「ちょっ…佐久間待て!展開に追い付けな…」
「2号おおぉぉおッ!!」
「ぎゃああああっ!!」

―その後、散々攻撃を受けた三人は馴れ親しんだ技を出すことにも幾許か慣れ、ボロボロの状態で地面に伸びていた。
特に防御の技を持つ円堂は集中攻撃に合い、そのカバーに回った豪炎寺と風丸が吹っ飛ばされ、結果円堂は倍以上の重みを受け止め続けた。そのためか、身につけたグローブは所々が破け、何だかもう悲惨な事になっている。

「とりあえず今日はここまで。今後の課題を言えば…まず円堂、お前技の強度は高いからそのまま射程伸ばせ。豪炎寺はあれか、とりあえずセンスの塊みたいなもんだとは分かったから攻撃バリエーション増やして、風丸はスピードの底上げか…」

へたりこむ三人に、先ほどの横暴さからは考えられない程指導者らしい事を言い始めた佐久間は、三人に課題を言うと変身を解いた。
嵐のような攻撃のどこで三人の特徴を掴んだのかは不明だが、とりあえず元の格好に戻りたかったので三人も同じように変身を解除する。

「まあすぐに前線に駆り出される事はないだろうし、次に来る時は俺の攻撃弾き返すくらい強くなってなきゃ、またフルボッコするからな」

そう言い残して足早に校門へ向かっていく佐久間の背を眺めながら、風丸は顔を引き攣らせて苦笑いを浮かべた。
「どうしてこうも魔法使う奴は横暴なんだ…」
「…佐久間は強いが、口下手なんだ」
風丸の呟きに、今まで黙っていた源田がぽつりと言った。その言葉に三人は源田に振り向く。

「嫌味に聞こえるかもしれない。でもあれは佐久間なりの償いのつもりなんだ。昨日の事の謝罪と、それからお前たちを認めたということ。…佐久間はプライドが高いから、認めてる事を素直に言えないんだろうな」
「…そっか」
「早く強くなって、前線で戦う佐久間たちを助けてやってくれ」
「おう、任せとけ!」

源田と円堂が拳を突き合わせた時、校門から佐久間の源田を急かす声が聞こえた。

「源田ぁ!何してんだよ!」
「…あぁ!今行く!」