魔法少女 | ナノ

あの後三人は、瞳子から大方の事情を聞かされた。

つまりは、超次元蹴球魔法とはボールを介せずに技を自在に使える力のことで、普通の人ならその力に目覚めることなく過ごすのだが、あの秘伝書を開いたことによって三人は魔法に目覚めるきっかけを掴んでしまったらしい。
秘伝書に書かれていたのは、蹴球魔法の知識や必殺技。そしてそれを開いた時、内容が全てバッジの中に集約され、白紙になってしまった。
なぜ円堂大介がそんな細工を施したのかは不明だが、使用者が見つかればそれは強力な力になる、と随分前から関係者の間で注目されていたそうだ。

そしてまさしくエイリアという脅威が現れた今、その力を発揮する時なのだ、と。

「で、何で俺たちなんですか?別の人でも良いじゃないですか」
「そういう訳にはいかないのよ」
風丸が瞳子にそう反論すれば、変わらない冷静な声がそれを否定する。
「魔法には資質や特徴があるの。恐らく、そのバッジはあなた達の資質に合わせてある。あなたたちだからこそ、その力を100パーセント引き出せるはず」
「…あぁ、何かもう何言われても驚かないよ…」

がっくりと肩を落とした風丸を尻目に、瞳子はパンと手を叩いて言った。
「エイリアもまた別の方式の蹴球魔法の使い手よ。彼らに勝つためにも、早速今日から特訓を始めてもらいます」



「って言われて来たけど、特訓って結局どんな事すればいいんだ?」
「何言ってんだよ風丸、特訓って言ったら特訓だ!魔法でも何でもサッカーを元にしてるなら、いつもみたいにやれば良いんだよ!」
「…順応するの早いな」
「豪炎寺だって何だかんだ言ってついて来られてるじゃないか」
薄暗くなった校庭の真ん中で、三人は瞳子に言われた通りバッジを持って集まっていた。ペンダント状になったバッジが風丸の胸元で水色の光沢を宿しているが、触れても特に変化はない。

「集まったようね」
「瞳子監督」
「あなた達はいわゆる宝の持ち腐れ状態だわ。こんなに強力な力と莫大な知識が詰まった宝を、まだ一度も使えていない」

そう言いながら、瞳子は円堂の手の中に収められているバッジを見遣る。
「前から不思議な感覚があったでしょう。心が研ぎ澄まされるような感覚。あれはあなた達の身体を通して、魔法知識が頭に流れ込んでいた証。今はまだ分からなくても、力に目覚めればすぐにでも技を使える段階にまでなれるはずよ」
「はあ…」
「まず、あなた達にはパスワードを設定して貰うわ」
「パスワード?」

円堂が首を傾げれば、瞳子は頷いて続ける。
「魔法を発動させるには、それぞれ違ったパスワード…平たく言えば呪文が必要なの。声紋認証を兼ねての」
「でも、呪文なんて全然思い浮かばな…」
「心を澄まして。あなた達の持つそのバッジの中に、あらかじめ組み込まれているはずよ」
「心を澄ます…」

三人がバッジを握りしめてすっと目を閉じる。そのまま数分、無言の時間は続く。
沈黙を破ったのは円堂だった。
「だああああ!!駄目だ何も思い浮かばない!!」
「まあ最初はこんなものかしらね…。せっかく円堂くんがいるのだから、『メタモルフォーゼ』はどうかしら。ヒラヒラの服着て」
「誰が喜ぶんだそれ」
風丸の冷静なツッコミに瞳子が小さく溜め息をつき、でもね、と再度口を開いた。
「強化服にならないといけないのは本当。でないと酷い怪我をする事になる」
「まさかそれも…」
「あなた達のイメージに頼る形になるわ」
さらりと言い放たれた言葉に落胆しつつ、三人は先を思いやり大きく息を吐き出した。

「魔法なんてイメージが全てよ。イメージトレーニングが大事。魔法少女としてのイメージを頭に思い浮かべればいいの」
「誰が魔法少女なんですか!」
「魔法と言ったら少女。自然の摂理よ」
「どんな摂理…」
ツッコミ切れないと風丸が頭を垂れれば、今日は終了、との瞳子の涼やかな一言で解散となった。陽はとっくに沈み、辺りは夜に染まっている。

散々な一日になったが、この後三人は家に帰るまで油断してはならないという事を、身を持って知る事になる。