魔法少女 | ナノ

瞳子の話は至ってシンプルなものだった。
レーゼが意識を取り戻したこと。今は地下の医療施設に保護されていること。記憶が一部無くなっていること。
そして、円堂たちと同じく、その正体は人間であること。
今は本人から話を聞いている最中で、まだエイリアの内部事情やレーゼ自身については不明な点も多いらしい。面会はできないが、部屋の外から彼の姿を見ることはできる、と。

円堂が何より驚いたこと――そして内心でああそうか、と少しだけ思ったことは、レーゼの正体だった。昨日ジェミニの面々が消える直前に見たレーゼの倒れた姿、そして何より攻撃が当たる直前の表情は人間そのものだったことが、ずっと頭にこびりついて離れなかったのだ。
一之瀬と電話してその違和感を口に出して、更にその感覚は強まった。だから瞳子の話を聞いた時、少し安心した部分があったことも確かだ。

理事長室から瞳子が出て行った後、何となく微妙な空気に包まれた円堂たちはその場に立ったままだ。
やがてその空気を壊すように、風丸がおずおずと口を開く。

「…どうする?今日、もう帰るか」
「…俺は寄るところがあるから」
「佐久間に同じく」
風丸の問いかけに佐久間と一之瀬は短く答えた。部屋を出る直前に手を振った一之瀬に緩く手を振り帰し、残った四人は小さく溜息をつく。

「どうするんだ、円堂」
「…俺、レーゼのとこ行ってみても良いかな」
「レーゼのとこって…地下医療施設か?」
少しだけ驚いた声色の風丸に、円堂は目を閉じて頷く。なぜこんなことを言い出したのかは円堂にも分からなかった。



レーゼの病室はマジックミラーになっていた。こちらがいくら中を覗いても本人は気づかない。中には瞳子が椅子に腰かけていて、何かを質問している様子が見て取れる。だが瞳子の言葉に受け応える彼は、おおよそ円堂たちの知るレーゼとは印象を違えていた。

「あれがレーゼなんて、嘘だろ…?」
「どう見ても普通の子だよね…」
「……」
「円堂、」

食い入るように部屋を見つめる円堂を、豪炎寺が案じるように呼ぶ。その声にも気づかない様子だった。激変したレーゼの姿から目が離せない、といったところか。
それもそうだ。吹雪の言う通り、自分たちと同い年くらいの普通の人間にしか見えないのだ。冷徹な印象はない。むしろ目元は柔らかくなり、瞳子のかける言葉によっては薄く微笑む姿さえある。その姿が一瞬苦しそうな表情をして頭を押さえ、瞳子に介抱されている様子を見た時、円堂の中に沈んでいた違和感の輪郭がうっすらと見えた気がした。


校門をくぐり、並んで少し歩く。あれからずっと黙ったままの円堂に吹雪が大丈夫?と声をかけると、円堂は歩みを止めて口を開いた。

「…俺、宇宙人を倒せば何とかなると思ってた」

円堂の呟きに全員の歩が止まる。
「悪いことをする奴を倒せば解決するって思ってた。でも違ったんだな。あいつらにも何か理由があって、逆らえない何かに操られてるのかもしれないって、何となく思ったんだ」
「……」
「あんな風に笑うやつ、きっと本当は破壊なんてできないよな。記憶をいじられて仲間を消されて…あいつもエイリアの被害者かもしれないなんて、思いもしなかった」

円堂が両の手をきつく握りしめ、そしてゆっくりと開いた。その掌の上にはオレンジに輝くバッジが乗っている。

「…助けよう。そういう人たちを、俺たちの力でさ」
「…そうだな」

彼にしては珍しい控えめな笑みは、それでも強い光を瞳に宿していた。