魔法少女 | ナノ

眩い光を放つ巨大な掌は、しっかりと攻撃を受け止めていた。強烈な光の渦を止めたその瞬間、衝撃に円堂は一歩押されたが、それでも以前のようにゴッドハンドが砕かれることはなかった。稲光と硝煙を発するそれはやがて消え、辺りには土埃だけが舞う。
一瞬静かになったその空気を壊したのはレーゼの方だった。

「馬鹿な…!更に強度を上げたとでもいうのか!?」
「進化してるのは同じだ、って言ってたよな。…俺はこの学校を守りたい。みんなを守りたい。その気持ちが強ければ、俺たちは誰にも負けない!どこまでだって強くなってやる!」

驚愕の表情に円堂がそう返したその時、レーゼの周りをちらちらと小さな光の粒が囲んだ。気づいた時にはもう遅く、まさか、という声の直後に光の粒子は輪となり、がっちりと胴体をその場に固定される。
「ぐっ…貴様は…っ!」
円堂たちを通り越したレーゼの視線の先、円堂たちまでもが後ろを振り返ると、そこには少しばかり遅れてきた一之瀬と佐久間の姿があった。レーゼを拘束したのは一之瀬であるらしい。急いできたからか、二人とも少しだけ肩を上下させていた。

「俺だよ!…なんてね」
「遅れてすまない、またお前たちに任せてしまったな」
一之瀬はおどけたようにウィンクし、さらにもう一段レーゼに拘束輪を仕掛ける。申し訳なさそうな表情の佐久間に、風丸はお互い様だよ、と笑いかけた。ようやく万全のメンバーになったところで、今一度ジェミニを振り返る。

「さて、リーダーが潰されたままどこまで戦えるかな」
「また…また貴様らか!」
眉間の皺はレーゼが歯を噛みしめるほどに深くなり、動けない自分自身と円堂たち両方に苛立っているのが誰から見ても明らかだった。冷酷で、人を人と思っていないことを口走るような、それこそ人間でないようなイメージだった彼が、こんなにも人間臭く感情をむき出しにしている。その光景に、円堂はどこか違和感を覚えた。

「レーゼ様!」
「私からの指示は一つだ…あいつらを、潰せえッ!!」

自身を案ずるメンバーの声をそのままに、レーゼは感情に任せて最後の命令を彼らに下した。半ば怒りをぶつけるように発せられた声は、何かに必死にすがりついているかのような、もがいているかのような色を持って円堂たちまで届く。その迫力に若干気圧された風丸たちを振り払うかのように、吹雪が前線に向かって駆け出す。豪炎寺もそれに続いて走り出した。

「吠えてろ!俺は誰にも潰されねえ!」
「吹雪!」
「おおっ!」

並走する二人が技の発動モーションに入る。レーゼの指示によって彼らを止めようとしたジェミニのメンバーを、一筋の光が遮った。佐久間のツインブースト、それも高速射出に特化したバリエーションのものだ。
佐久間の支援によって豪炎寺と吹雪の動きは止められることなく、やがて限界まで溜めた力を一気に発射する。十分に充填された魔力は、二人の合図によって一直線にレーゼに向かっていった。

「く…っ!」
レーゼが目を細めたその時、彼の前にゴルレオが立ちはだかってブラックホールを展開させた。レーゼが目を見開くと、強すぎるパワーに辛うじて耐える背中が視界いっぱいに映る。
それだけではない。自らの指示に従って戦ってきたジェミニの面々も、戦いの中で怪我を負っている。決してかすり傷のような生易しいものではない。その光景を目にして、レーゼは無意識に言葉を発していた。

「な…馬鹿者っ!そんな無茶をしたらお前も…っ!」
そこまで言って、レーゼははっとした。今まで自分の中になかったはずの感情が、まるで人間のような感情が自らを支配している。
これは、この感情は。

「ぶち抜けえええ!!」
吹雪の雄叫びと共に放射され続けていた炎と氷が、ゴルレオの手の中で大きく膨らんだ。一瞬にしてその光球は堰を切ったように溢れ、攻撃をせき止めていたブラックホールが消え、そして――

「――っ!」
一瞬、最後の瞬間にレーゼは息を止めた。そしてその直後、二色の攻撃がレーゼに直撃した。

放射が終わり、光は途切れ途切れになって消える。限界以上の力を出した吹雪と豪炎寺はその光景を見た後、片膝を地面についた。
光が消えた後、そこには攻撃が直撃すると同時に変身が解除され、吹き飛ばされたレーゼの姿があった。
だが。

「あれは…!」
意識を失って倒れ伏すその姿を見て、円堂が目を見開いた。まるでそう、人間のような――

円堂が近寄る間もなく、瞬時に散らばっていたジェミニの全員を風丸が拘束した。そして縛られた彼らのもとへ一之瀬が歩み寄り、ひとつ息を吐いて口を開く。

「ギブアップ、だね。君たちはこちらで保護することになるよ。詳しく話を…」

一之瀬がそう言って手を伸ばした瞬間、ジェミニのメンバーが座る地面に巨大な魔法陣が現れ、彼らを包むように輝いた。一之瀬が慌てて後ろに下がって魔法陣の外に出ると、輝きは一層強くなり、目を開けていられなくなる。思わず目を瞑るその直前に見えた彼らの表情は、どこか覚悟と憂いを帯びていた。全てを諦めたような人間の表情だ。

光が収束し、円堂たちは目を開く。そこに残っていたのは、意識を失ったままのレーゼ、だった人間の姿だった。

「…どういう事だよ…?」
「と、とりあえず彼の保護を…」
その場の全員が今しがた起きた事態に頭が追いつかないまま、その場に立ち尽くす。円堂たちがおずおずと一歩歩み出たその瞬間、突然一年の教室棟の影から小さな物音がした。物音を生んだ人物はこちらを見つめ、喉から細い声を漏らす。

「先輩…?」

静寂の中生まれた違和に思わず振り返った先には、見覚えのある影が困惑の光を瞳に宿し、立ち尽くしていた。

「…おと、なし…?」