魔法少女 | ナノ

「リーム!ディアム!」
「ダークトルネード!」
レーゼの指示で二人が円堂たちに向かってくる。ディアムから放たれた黒い螺旋状の光は、一直線にこちらに向かって伸びてきた。
それを足を止めて吹雪は迎え撃ち、自分と後ろの豪炎寺を守るようにして杖を突き出した。そこから展開された氷の膜は、ディアムの攻撃を受けきって消滅する。一撃を防がれディアムとリームは一瞬怯み、その隙をついて豪炎寺が突撃した。

「っ!」
「ファイア!」
「リーム!」

豪炎寺の持つスキル、瞬間発動。威力以外を犠牲にし、キーワード一つで通常攻撃と同等の威力を持つエネルギーを一瞬で撃ち出すスキルだ。
豪炎寺の攻撃によって最前線のリームがダメージを負い、倒れ伏す。しかしそれでも尚、吹雪と豪炎寺は前進をやめなかった。二人を止めるべくイオがグラビテイションを発動しようとしたが、一瞬で動きが止められる。阻止したのは空色に輝く光の輪だった。

「風丸!?いつの間にそれを」
「話は後だ!豪炎寺!吹雪!」
風丸がイオを拘束したまま叫ぶ。前線の二人はそれに応えるように頷いた。

「一つ覚えの突撃…そんなもの通る訳がない!」
「それはどうかな」
吹雪の髪が逆立ち、瞳が強烈な光を燈す。一瞬で雰囲気の変わった吹雪にレーゼは目を見開いた。

「豪炎寺ィ!!」
「なっ!?」
吹雪が豪炎寺を呼んだ直後、二人は並走していた状態から一気に二手に分かれた。吹雪が高くジャンプしたかと思うと、ジェミニの陣を挟むように二人は攻撃を繰り出す。
まるでいつかのドッジボールの時のような戦法だ。意表を突かれたジェミニの陣形が二人の攻撃によって崩れたその一瞬の隙に、二人は挟み撃ちのごとく同時に叫んだ。

「ファイアトルネード!」
「エターナルブリザード!」
二人が同時に放った炎と氷は轟音と共にレーゼたち目がけて伸びた。だが直撃は確実かと思われたその攻撃が、直前で歪曲して消滅する。ゴルレオが両手から発動させた防御魔法、ブラックホールによるものだった。二人の放った攻撃の軌道には、火の粉と氷の粒が舞い散る。

「ちっ…防がれた…!」
「何度も同じ手は食らうものか…!ディアム!」

ゴルレオに守られながらレーゼが足元に魔法陣を展開させ、ディアムを呼んだ。突き出されたレーゼの右手とディアムの左手に光が結集し、どんどん膨らんで大きくなっていく。黒い光球の中に星の光がちらつき、やがて限界まで膨らんだところでレーゼが言い放った。

「進化しているのがお前たちだけだと思うな!ユニバースブラスト!!」

一瞬、周りの空気が急激に重くなったように感じられた。それはアストロブレイクとはすべてが段違いだった。太く伸びた魔力の渦が一気に発射され、地面を抉って進む。豪炎寺と吹雪はかろうじて回避したものの、かすっただけで強化服の一部が裂け、血飛沫すら上がる。そしてその巨砲はまっすぐ円堂たちに向かって伸びていく。
攻撃が迫る先、風丸がその弾速に反応できず足が止まる。どちらにせよここで避けたら校舎は跡形もなく木端微塵になってしまうのだ。思わず息を飲んだ、その時だった。

「風丸、動くなよ!」

背後から聞こえた声に振り返る。そこにはオレンジの光に包まれた円堂が前を見据えて構えていた。
円堂の足元に魔法陣が煌めく。持てる全ての力を振り絞ってその名前を呼んだ。もう前のような失敗はしないと、瞳に強く決意を宿して。

「ゴッドハンド!!」

ああ、前と同じ状況なのか。
円堂の放つ光が風丸の視界を埋め尽くす直前、脳裏にふとそんなことが思い浮かんだ。ただ一つ違うのは、自分たちに微かに自信が持てるようになった、ということ。
大丈夫、今の俺たちなら負けないさ。強烈な光の中で僅かに円堂の声が聞こえた気がした。