魔法少女 | ナノ

瞳子は自分の不手際に憤っていた。決して表面には出さないが、度重なる敵方の襲来を未然に防ぐ事はおろか、対応が遅く後手に回ってしまい、前線で戦う彼らを傷付けてしまっている事実に、自身を叱咤する。

(これは私の身勝手だから、あの子たちを巻き込んで良い訳がない)
(でも私は、事態を一人でどうにかする術を持ち合わせていなかった)
(そのための力を、私は授からなかったから――)

モニターに映る彼らの笑顔を、複雑な眼差しで見つめてそっと瞼を閉じた。通信を遮断したまま、僅かに息を止める。無人の部屋で、自分にしか分からないような小さな声が、震えるように吐き出された。

「大きな力は悲劇しか生まないと、一番分かっていたつもりなのにね…」



夕刻の光を禍々しい空気と濃霧で掻き消しながら、レーゼたちジェミニストームの面々は雷門中の地面を踏んだ。
放課後とあって人はいない。上司であるグランたち直々に命令された通り、雷門中を破壊するために来たのだ。詳しい理由は知らないが、グランのお気に入りである円堂もいない。正に破壊にはうってつけの状況だ。

「邪魔が入ると思ったが、逃げ出したか」
拍子抜けだと言わんばかりに溜息を漏らしたレーゼは、そのまま右腕を突き出す。その矛先が校舎に向けられた瞬間、つんざくような叫び声が辺り一面に響き渡った。予想外の事態に、レーゼを含めたジェミニの全員が静止する。

「ちょっと待ったああーーーッ!!」
「!?何だ!?」

声と共に本校舎の、一年校舎の、そして体育館の屋上から、4色の光が天を突き抜けるように伸びた。左右正面、どこを見て良いのか分からずにレーゼたちは動けない。やがて光は収束し、そこには夕日を背負うようにして変身した円堂たちが立っていた。
レーゼが突然の出来事に思わず身構えると、左側の校舎から吹雪が高らかに叫んだ。

「氷嵐円舞!雪原の皇子・吹雪士郎!」
「……は、」
いきなりの名乗り上げに、意図せず力が抜けた。ポカンと口を開くレーゼたちをそのままに吹雪たちは次々と名乗りを上げ、ポーズを決めていく。

「紫電一閃!雷鳴の守り手・円堂守!」
「爆熱猛火!炎の射手・豪炎寺修也!」
「し、疾風一陣!音速の風神・風丸一郎太!」
「…い、一体何だというんだ……」
レーゼの一人虚しい小さなツッコミを無視して、至って真剣な円堂たちの口上は続く。

「人の世に蔓延る悪の牙を!」
「正義のハートで一網打尽!」
「…勇気の心を魔法に変えて」
「答えてみせよう!俺たち無敵の」
『魔法少女・イナズマカルテット!!』
「馬鹿にしているのかあああ!!」

どこぞのアニメのような決め台詞の嵐に、ついにレーゼの堪忍袋の尾がブチ切れた。その魂の叫びを聞いた吹雪は、自ら演出した登場シーンが受け入れられなかった事に眉を寄せて思案する。

「やっぱちょっと本気でやり過ぎたかな…」
「悪いリテイク!」
「マシュマロプリンス・吹雪士郎!」
「宇宙一のサッカーバカ・円堂守!」
「その茶番はもうやめろ!!」

放っておくと果てのなさそうな小芝居に、レーゼはキャラをかなぐり捨てて叫んだ。そして額に汗と青筋を浮かべながら右手に魔力を結集していく。

「何を始めるかと思えば、人を馬鹿にしたような振る舞い…私たちの行く先々に現れては邪魔をする小市民め!三界六道廻ってあの世へ消えろ!」

苛立ちをぶつけるかのように、レーゼがアストロブレイクを放とうとした。その一瞬だった。
「疾風ダッシュ!」
一陣の風のように風丸がレーゼたちに突っ込んだ。一瞬で屋上から距離を詰めた風丸のスピードに、誰もが追い付けない。風丸の巻き起こした風が不可視の空気の通路となり、その姿を確認する頃には豪炎寺が手をかざしていた。
「今だ豪炎寺!」
風丸が叫ぶ。全てが一瞬だった。

「ファイア――」
「何だと…!」
「トルネード!!」

豪炎寺が叫んだ瞬間、炎の渦が風丸の作った道を滑るように貫いた。レーゼの掌の光は炎が掠った瞬間に消え、槍と化した炎を辛うじてかわす。
「良いぞ豪炎寺、風丸!」
「なけなしの作戦が功を奏したか…佐久間の教導のお陰かな…」

以前とはまるで違う彼らに、不本意ながらもレーゼは驚いていた。ジェミニの何名かも負傷したようだ。レーゼの身を案ずる彼らを戦闘布陣につかせ、自らも位置につく。地面に降りた円堂たちを静かに睨みつける瞳の光は、彼らを射貫かんばかりに鋭さを増していた。


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