魔法少女 | ナノ

雷門中の地下に密かに建造されていたモニタリングルーム。そこに取り付けられた巨大なスクリーンは、吹雪が仲間になってからの彼の映像を、切り取って繋げたかのように映し出していた。

「吹雪士郎…不思議な子ですね、彼。まるで別人のよう」
スクリーンの光が、部屋と、そこに立つ夏未と瞳子の姿を照らし出す。次々と展開されて行く映像に、夏未は興味深そうに呟いた。

「別の魔法のように色が変わるエネルギー光…それにあれは『瞬間発動』のスキルかしら」
「豪炎寺くんも同型のスキルを発動させていますが、あれは…」
「おそらく、一之瀬くんに教わったのね。でも何より不可解なのは、あの人格の変容だわ」

瞳子は、吹雪たちの魔法訓練の映像を繰り返し見ていた。穏やかな言動の吹雪が一瞬で荒々しい彼になる映像を、手元のキーボードで巻き戻す。

「雰囲気が変わると光の色も変わっている…まさか、一つの魔法を全く逆の方面に使い分けている、という事…?」
スクリーンを見つめる瞳子の目が、研究者のそれに変わる。しばらく巻き戻しを繰り返し、画面から二色の光が絶えることはなかった。



「え、じゃあ今吹雪は学校行ってないのか?」
「うん、休学ってことになるかな。とりあえず一段落つくまではね。でもこんな状況じゃ、多分まともに授業なんてやってないよ」
あれから放課後の魔法訓練は、吹雪を加えて行われていた。レーゼたちが襲って来てからしばらく日が経つが、目立った破壊行動がないのが嫌に目立つ。瞳子はそれを要注意だと告げた。円堂たちがそうであるように、彼らもまたパワーアップのための特訓を積んでいる可能性は高い、という計算だ。彼らに勝つためには、彼らを凌ぐ程の練習量をこなさなければならない、という訳だ。

練習が一通り終わり、三人と吹雪は休憩に入っていた。吹雪は初対面の時のような荒々しい面は全く見せず、今は終始穏やかな笑顔のままだ。あんな風にぶつかった豪炎寺とも、今は2トップとしてのコンビネーションの練習に明け暮れている。
何はともあれ、仲間として温かく迎えられているということだ。

「吹雪、こっちに来てから大変じゃないのか?」
「でも、僕が必要だって言ってくれたんだ。それが嬉しかったし、何よりまた楽しくサッカーしたいから。頑張らないとね」
「…そっか。それは俺たちも同じかな」
「それに僕、今までずっと一人で魔法使いやってきたから、仲間ってすごく良いなあと思うんだ」
吹雪は自身の持つバッジを握り締めて、ふわりと笑った。つられるようにして円堂もニッと笑顔を見せると、吹雪は笑みをそのままにポケットから何かを取り出す。

「ついでにね、みんなと仲間になれた記念に、やりたい事があるんだ」
「この紙は?」
「ふふ、こういうの憧れなんだ」
「えーと、……吹雪、本当にこれ何」

三人は取り出されたメモ用紙に目をやった。紙面に並ぶ文字を見て、円堂はポカンとし、豪炎寺は相変わらず無表情を保ったままだ。吹雪は楽しそうにニコニコと笑い、風丸は一人ツッコミを全うしようと気を引き締めるが、何が何だか理解したようで訳が分からないというのが本音だった。疑問半分、そして不安半分といったところか。

4人が集まって内輪会議に没頭していると、その会話を遮るように頭の中に瞳子の声が響き渡った。

『皆、聞こえてる?』
「え、ひ、瞳子監督?これどうなって」
『本部の機械を通して、あなたたちの脳に直接アクセスしているわ。簡単に言うとテレパシーよ。落ち着いて聞いて頂戴、緊急事態なの』
突如聞こえた瞳子の声が頭に反響する。焦りを含んだ声色は、内容からして地下の施設からのものだろう。変身を解除した状態で、緊張から手中のバッジを握り締めた。

『エイリアの物と一致する魔力反応を感知したの。ただ、前回より時間がある。一之瀬くんと佐久間くんは別区画で警戒に当たってもらっていたけど、今回は間に合いそうだわ』
「前にも劣らず急ですね…」
『出現場所が不特定なのよ』
「何か予測はできないんですか!?」

焦ったように風丸が言うと、頭に響いていた声が一瞬途切れる。そして小さく、自分に対して言い聞かせるように、呟かれた。

『――せめて、“彼"が現れてくれれば…』

瞳子の呟きに円堂が「監督?」と名前を呼べば、現実に呼び戻されたかのようなはっとした声が全員に届けられる。

『ごめんなさい、独り言よ。とにかく、今回ばかりは彼らを逃がす訳にはいかない。私もテレパシーで指示を出すわ。必ずエイリアを拘束しなさい。――場所は、雷門中!』

瞳子の言葉に煮え切らないものを感じつつも、その場で感じる背筋を這うような空気の流れに、円堂たちは気を引き締める。そんな中、吹雪だけがいつもと変わらない様子で微笑みを向けた。

「大丈夫だよ、みんな。前の時とは違うんでしょ?たくさん特訓して強くなってる。絶対勝てるよ。宇宙人なんて出し抜いてやろうよ」
「吹雪…」
「…そうだよな。仲間も増えたんだもんな!」

吹雪の言葉で火が点いたように、円堂は気持ちを奮い立たせる。その笑顔に後押しされるように、風丸と豪炎寺も笑みを取り戻した。

「前の挽回だ!絶対勝つぞ!」


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