魔法少女 | ナノ

吹雪の周りの空気が、まるで意思を持った生き物のように渦巻く。肌を突き刺す冷たさに踏み出せない三人を見据えて、吹雪は杖を掲げて叫んだ。

「吹き荒れろ…エターナルブリザード!!」
吹雪が杖を横一直線に薙ぐと、先程と同じ氷の刃が三人目掛けて猛然と迫る。速い、と感じた時には円堂が立ちはだかっていた。右手を突き出し、電光を走らせながら巨大な掌が現れる。

「ゴッドハンド!」
ズン、と一気に重みを増した掌に、円堂は足を踏ん張る。しかし、次第に冷気は手全体を覆い尽くし、刃の破裂と共に粉々に砕かれた。
硝煙の切れ目を見つめる吹雪は、勝利を確信したように笑みを作ったが、その表情はしかし、一瞬で豹変した。

「疾風ダッシュ!」

煙の中で空色の光が輝いたかと思うと、両手足首に光の羽根を出現させた風丸が飛び込んでくる。加速と機動補助の魔力翼によって一瞬で間合いを詰めた風丸を見て、吹雪は僅かに目を見開いた。
しかし吹雪は風丸の突撃をジャンプでかわし、逆に風丸が驚愕の表情を浮かべた。二人の視線が噛み合う一瞬、スローモーションのように流れた刹那に、吹雪の口角が持ち上がる。
吹雪はそのまま円堂たちに突っ込んでいく。その視線の先には、豪炎寺が映った。

吹雪が豪炎寺の背後を取る。とっさに振り向いた豪炎寺と吹雪が叫ぶのは同時だった。

「ファイア!」
「ブリザード!」

閃光にも似た、凄まじい衝撃。吹き付ける猛吹雪のような風と、爆発したかのように猛る炎が、一瞬にして二人の間でぶつかり合った。
爆発の衝撃に、吹雪は今度こそ驚きの色を隠せなくなる。二つの力が弾ける瞬間、押されたのは吹雪の方だった。

「豪炎寺!!」
とっさに身を守った円堂と遠くの風丸が、豪炎寺を呼んだ。豪炎寺の右手からは煙が上がり、その衝撃の強さを物語るかのように、身にまとった強化服もあちこちが破れている。
「大丈夫か!?今何が…」
「…くそ、」
立ち上がる豪炎寺を射るような目つきで睨む吹雪の目は、燃え盛るような山吹の光を燈したままだ。膝立ちから立ち上がった吹雪は、頬についた煤を乱暴に拭う。

「お前、俺と同じ…」
そこまで呟いた時、ふいに吹雪の身体が不自然な動きを始めた。まるで誰かがどこからか操っているかのような動きだ。吹雪は望む動作が上手く出来ないのを必死に動かすように、じたばたと暴れる。


「…っ!?てめえ、何すんだよ!勝手に…ッうわっ!!」
三人が吹雪を困惑の眼差しで見つめると、短い叫び声の後に吹雪の肩ががくりと垂れた。三人は一瞬構えたが、直後ゆっくりと息を吐き出す声が吹雪の唇から漏れた。

「…はぁ…もう、やり過ぎだってば!だから嫌だったのに…」
「…え、と…吹雪…?」
「…あ、ご、ごめんね!その、いきなりこんな事…」
吹雪は先程までとは正反対の穏やかな声で、三人を振り返った。瞳は深い碧色で、さっきまでの荒々しい光とはまるで違う。吹雪は心の底から謝るように申し訳なさそうな顔をして、三人に一歩踏み出そうとした。
その瞬間、三人と吹雪の間を光の帯が遮るように突っ切った。

「あ、っ!?」
「吹雪!?」
吹雪たちが怯んだ一瞬の間に、強制的に引き離された吹雪の手足が、コバルトグリーンの光の輪によってその場に固定される。振り返ると、そこには鬼の形相の佐久間が立っていた。

「ふ〜ぶ〜きぃ〜…」
「さ…佐久間くん…」
冷や汗を流して佐久間を凝視する吹雪に、三人は困惑が隠せない。階段を上って四人の元に歩み寄ってくる佐久間は、啖呵を切ったように吹雪に説教を始めた。

「お前今人材不足なの分かってるよな?だからお前が呼ばれたんだもんな?なら何だこの光景は!お前味方殺す気か!?」
「ご、ごめんなさい…」
「交戦反応あると思えば同士討ちなんて、冗談じゃ済まされないぞ!分かってるのか!?」
「は…はい」
佐久間の気迫に気圧され、しゅんと項垂れる吹雪を見て、三人は未だにその展開の早さについて来られずにいた。怒鳴る佐久間に対して円堂がおずおずと疑問を口にする。

「あ、あのさ。吹雪って何者なんだ?」
「…もしかして、何も聞いてないのか?」
佐久間と吹雪が同時に振り返り、ポカンとした表情で三人を見た。同じような顔で肯定すれば、吹雪は笑みを湛えて口を開く。

「吹雪士郎。北海道から召集されて、今日から君たちの仲間になりました。よろしく」


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