魔法少女 | ナノ

「…ねえ、いくら僕が広域魔法が得意だからって言っても、早く見つけてくれないとちょっと苦しいんだけど…」

鉄塔広場は見晴らしが良く広い。稲妻町全体が一望出来るそこはしかし、今は宵闇に沈んでいる。そこからは呆れたような少年と思しき声が僅かに聞こえてきた。静寂の中に毛糸玉のような柔らかな声が響く。
『あと少しで引っ掛かりそうなんだよ。近くに大型の魔力反応を感じる』
「でも、この広域探索魔法も範囲ギリギリの区域は相手に察知されちゃうし、東京って遮蔽物が多いからこんな大型魔法は辛いんだよ?分かってる?」
『分かってるよ。…見つけた。魔力反応大、ビンゴだ』

少年の足元には蒼白に光る巨大な魔法陣が描かれている。その中央に立つ本人は、少しだけ疲労の色を携えた表情で手中の杖を握り直した。内側から響く声に愚痴を漏らしながらかざしたままの杖を下ろせば、足元の光はスゥッと輝きを失う。

「…はあ、怒られたら責任取ってよね」
『大丈夫だって、ちょっとした肩慣らしだ。…良いよな、士郎?』
「はいはい」
好奇心の募る声に仕方ないという様に返事をすれば、少年は落下防止用の柵を軽々と飛び越える。その一瞬後には燃えるような山吹色の光が暗闇を昼のように照らし、それから何も見えなくなった。


「…なあ。さっきから寒くないか?」
「確かにちょっと変に肌寒いな」
帰り道、商店街を抜ける頃になってふいに円堂がそう呟いた。それに風丸が呼応し、いつもと違う不可思議な感覚に首を傾げる。

「鉄塔広場の近く…多分広い場所。よく分からないけど、そっちの方から変な感じがするんだ」
いつになく真剣な円堂の表情に風丸と豪炎寺は顔を見合わせる。その次の瞬間には円堂はいきなり走り出していた。
「おいっ!円堂!?」
「追おう、風丸。エイリアかは分からないが、円堂の言う通り少し様子が変だ」
豪炎寺までもが円堂を追うようにして駆け、風丸も訳が分からないまま二人の後を追っていた。その俊足を発揮しながら溜め息をつくように展開の早さを呪った。



因縁とも言えるそこに着いた時、既に辺りは夜に沈み、辛うじて互いの影が見える程だった。何も変わった所はないか観察するように辺りを見渡す。
「何もないぞ」
「うーん…気のせいじゃないと思ったんだけどなあ…」
一緒になって異変を探していた風丸にそう言われ、円堂は納得いかないと言うように唸る。その時、一人離れた場所にいた豪炎寺の真上から、何か音がした。

「危ない!」

直後に円堂の叫び声と轟音が響き渡る。振り返った豪炎寺に真っ白な氷雪の風が吹きつけ、まるで砲弾でも炸裂したかのような煙と冷気が立ち込めた。
「豪炎寺、大丈夫か!?」
「大丈夫だ…」
土煙の切れたそこには、まるで巨大な刃物で切り付けたような痕が残されていた。間一髪の所でかわした豪炎寺のすぐ側だ。二人が駆け寄って今しがた攻撃が降ってきた頭上を見上げる。

「イナズマ、メタモルフォーゼ!」
ピシリ、と氷が音を立てる音がした瞬間、三人が後ろに飛びのく。円堂がいた場所には先程見た攻撃が炸裂した。
「誰だよ!」
三人が変身すると、木に隠れて見えなかった人物が月明かりに照らされるようにしてようやく姿を現した。

白い服、たなびくマフラー、右手の杖。眼光は鋭い山吹色に光り、三人を見下ろす。円堂と目が合った瞬間、その口元がニッと笑った。
そして、次の瞬間には円堂目掛けて『降って』いた。

「っ!」
一瞬で距離を詰められ、息を飲む。瞬時に出したゴッドハンドに飛び込むように、白い影は身体全体を使って杖を振り下ろした。接触した二つの間で電光が弾ける。円堂はそれを爆破させて煙を起こし、視界を眩ませて距離を取った。いきなりの奇襲に何が起こったかまだ分からないままだ。

「円堂!」
「大丈夫だ、けど」
「…エイリアの仲間か」
豪炎寺が警戒するように相手を睨み付ける。だがその鋭い眼光に怖じけづく様子もなく、少年は口元を吊り上げ、初めて言葉を口にした。

「俺は宇宙人なんかじゃねえよ」
「一体何なんだよ、いきなり襲うなんて」
「人聞きの悪い事言うなよ、俺はただお前らの力がどれ程のものか見たいだけだ」
「奇襲には変わりないだろ…」
風丸が呟くも、少年は気にせず手にした杖で三人を指すようにして、高らかに名乗りを上げた。風が急に冷え、渦を巻くようにうねり始める。

「俺は吹雪士郎、凍結の魔法使い。お前ら、この俺と勝負しろ!」
二重の意味で一気に冷えた空気の中、三人は緊張感と同時に全く同じ事を頭の中で叫んだのだった。

(またこのパターンかよ!!)