魔法少女 | ナノ

「魔法を発動しないで攻撃を防いだ…」
一之瀬の両手を中心に広がる翡翠色の光は、倒れ伏す円堂たちの後方まで覆うのではないかという範囲にまで広がり、攻撃を遮断している。円堂が霞む視界で見上げた先には、三人の前に立つ一之瀬の背中。光の壁を隔てた更にその向こうには、驚愕の表情のレーゼが見える。

「俺のスキル…『自動防衛』」
「防衛スキルだと…!?」
「『不死鳥の名を持つヒーロー』って、聞いた事ない?」
「…不死鳥…?」
一之瀬の呟いた言葉を円堂が反芻すると、振り返って一之瀬は微笑んだ。顔の半分がそのエネルギー光に照らされて、鮮烈な印象を形作る。一之瀬が前に向き直ると、地面から渦を巻くように現れた光が一之瀬に纏うように身体を包んでいく。

「いくよ――『フレイムバード』、ゴー・アクション!」

一之瀬の唱えたパスワードが発動した瞬間、その光量の強さに誰もが瞼をきつく覆った。一之瀬を包む光の膜がヒビ割れて弾けると、そこには円堂たちのように強化服に身を包んだ一之瀬が現れる。

「一之瀬…お前、魔法使いだったのか…?」
「あっちでは『ヒーロー』って呼んでたけどね」
円堂の問いに、一之瀬は学校の時と何ら変わりない表情でさらりと返した。そのまま距離を置いたレーゼと一之瀬は互いに構える。
「俺の後ろから離れないでいてくれよ」
一之瀬の後ろ姿が念を押すように呟いた。返事をする前に魔法陣が一之瀬の足元に現れる。
「タイマン張るタイプじゃないんだけど、仕方ないかな」
「一人増えようと関係ない」
一之瀬の掌の上で風を巻き込みながら光球が膨らんでいく。レーゼと一之瀬が腕を突き出すのは同時だった。

「アストロブレイク!」
「スピニングシュート!」

旋回しながら加速する一之瀬の攻撃は、部活の時に円堂の前で披露されたものと同じ名前だ。ぶつかり合った二色の光の帯はそのまま相殺し、土煙だけが残る。
「破壊性能が良い…円堂、よくこれ防いだね。尊敬するよ」
「あ、ありがとう」
一之瀬とレーゼが第二波を構えた時、突然ミサイルのような物がレーゼ目掛けて頭上を飛び越えた。円堂たちが目をこらして見る間もなく一之瀬が安堵の表情で呟く。

「…ようやく来たみたいだ」
「佐久間!」
様々な軌道で目標に飛び交うそれは、円堂たちもよく知るもので。愛らしい見た目に反した威力を持つそれは、まさしく佐久間の皇帝ペンギンだ。
「すまない、到着が遅くなった」
「大丈夫。それより三人の保護が先だよ」
一之瀬に促され、担架を持った数人が三人を運んで行く。最後に見たものは、一之瀬が親指を立てた姿だった。そのまま意識が遠退き、眠りに落ちるように瞼を閉じた。



「身体はもう大丈夫?」
「ああ。起きた時には全快だった!」
「なら良かった」
翌日、昼休みの屋上で三人と一緒に一之瀬も交じって輪を作っていた。あれから寝ている間に何か特別な治療を受けたらしく、「自主練が長引いた」で言い訳できる程回復していたのには本人たちが一番驚いた。

「それにしても、一之瀬も瞳子監督に召集されたうちの一人だなんてな」
「助っ人のようなものなんだ。土門もいるし、しばらくはこっちにお世話になる予定」
「そっか」
一之瀬が購買のサンドイッチの袋を破きながらこれまでの経緯をつらつらと並べていく。日本に来てから初めての購買なんだ、と言う一之瀬の若干乱れた髪がその壮絶さを無言で物語っていた。あの後一瞬で彼らは消えてしまい、拘束する前に逃げられてしまったのだという。
「…強かったね、彼ら」
「ああ。一之瀬が来てくれて良かった」
「…まだ勝算はあるよ」
ぽつりと落とされた声に、三人は顔を上げる。一之瀬は笑顔だった。

「まだみんな諦めてない」
「…ああ!」
拳同士をコツンと突き合わせた円堂と一之瀬のその横で、豪炎寺と風丸は二人がどことなく似ているように感じた。
「まあ、心意気も大事なんだけどね。…豪炎寺」
「何だ?」
いきなり呼ばれた名前に多少驚きながら豪炎寺が一之瀬を振り返った。
「君にはちょっと習得してもらいたいものがあるんだ」