魔法少女 | ナノ

駆け付けたそこは、言いようのない雰囲気に包まれていた。
近隣の住民たちは既に避難済みらしく、そこにいるのは円堂たちと敵であるエイリアだけだ。円堂が真っ先にその姿を見つけると、紫色の光を纏った人物が振り返る。その後ろには、同じような格好をした何人ものエイリアの魔法使いであろう面々がずらりと並ぶ。

「お前たち、何してるんだ!」
「…小虫が湧いて出たな」
「誰が小虫だ誰が!俺は円堂守だ!」
「お前たちに名乗るような名はない。…どけ」そう言って円堂たちを睨み付ければ、円堂の後ろから豪炎寺が前に出る。
「ここから先は通させない。お前たちこそここから手を引け」
「…何か豪炎寺が言うと少年誌のライバルキャラみたいな感じに聞こえるな…こうクール系の…」
風丸がぼやくと、目の前の人物はおもむろに右手を前に出した。すると掌に渦を巻いて光が集まり、球体は見る見る内に巨大化していく。やがてピリピリとした空気が肌を掠め、空気のうねりと共に砂塵までもが掌の中で光に変わった。円堂たちが身構えると、目の前の人物はぽつりと呟いた。

「地球にはこんな言葉がある。…『弱い犬ほど良く吠える』」

瞬間、まがまがしい程の紫の光の玉が地響きと共に掌から発射された。砂を巻き上げ、地面をえぐりながらズン、という轟音と共に円堂たちに迫っていく。
「まずい…っ!」
「円堂ッ!」
豪炎寺と風丸が円堂を振り向いた瞬間、光は炸裂した。凄まじい爆発音の後に煙が立ち込め、辺りは全く見えなくなる。
「…呆気ないな」
「レーゼ様!あれを!」
「――何…?」

攻撃を仕掛けた張本人、レーゼは目を見開き土煙の向こう側を見遣る。煙が風によって切れたその先には、バチバチと電光を発しながら攻撃を防いだオレンジ色の光の掌が現れた。それを出していたのは、紛れも無い円堂自身だった。
「…っはあ、何とかギリギリ間に合った…」
「どういう事だ…!」
レーゼが信じられないといった表情で拳を握り締めれば、風丸が円堂の後ろで口を開く。
「円堂は、お前が攻撃準備をしている間に防御の準備をしてたんだよ。同じようにな」
「…私の攻撃が拡散する瞬間ギリギリまでエネルギーを溜めていたとでも言うのか…!」
「ああ。…まだ手が痛い」

防ぎ切ったと言えども、円堂たちにも余裕はない。既に第二波を仕掛けようとしているレーゼの前に、今まで後ろに控えていた他の仲間たちが援護に出ようと、円堂たちに容赦なく途切れることのない攻撃の雨を降らせ始めた。絶えず続く衝撃に円堂は踏ん張った足が押され気味になる。

「ぐっ…!」
「このままじゃ防戦一方だ…どうにかして前に出ないと…!」
嵐のような攻撃を防ぎながら作戦を考えるが、こんな一方的な状況下では攻撃を受けるのに精一杯だった。頼みの綱の豪炎寺も、レーゼという対象までには距離がありすぎて攻撃が届かない。ずっと穿ち続けられてきた円堂のゴッドハンドにヒビが入り、亀裂が走る。攻撃が当たる度にビシッ、という嫌な音が響いた。

「終わったな」
「!」
攻撃が途切れたその先に、紫の光を纏うレーゼの姿が見えた。
「アストロブレイク!」
「!…円――」

今までより一層強い振動と衝撃が、ヒビ割れた壁をいとも簡単に突き破った。
衝撃波、噴煙、閃光。それらが止んだ時、三人は地に伏して身体に砂礫を降り積もらせていた。
「…まるで四面楚歌と言った所か」
「…ッゴホッ…」
埃を吸い込んでむせる円堂の正面に立って、レーゼは見下ろしながら手をかざす。円堂が右手を出すが、そこからは何も生まれない。レーゼの手の中の球体がはち切れんばかりに大きくなり、そしてその腕を振りかざした。


「――誰だ!」

覚悟していた衝撃は訪れなかった。
薄く開いた目が捉えるのは図形のような幾何学模様の魔法陣。それは翡翠色の光をもって、円堂たちの伏せる地面にひとりでに描かれて行く。
目の前には誰かの足元だけが見える。そしてその足の間の向こうに、誰かとレーゼとの間に魔法陣と同色の光の障壁が形成され、盾となっているのが分かった。

「…一之瀬…?」

見上げた先。
一之瀬一哉その人が、そこに立っていた。