一之瀬は帰り道が逆らしく、校門を出る際に手を振った。昨日といい今日といい、瞳子からの伝達がないどころか彼女自身がいないというのが、それだけ平和だからなのかは三人には分かるはずもない。帰り道を歩いて鉄塔広場まで着くと、木にぶら下げたタイヤが日常の中にいる事を表しているようだった。 「まるでエイリアなんていないみたいだな」 「でも影で佐久間たちが戦ってるんだろ」 「最近はニュースでもあまり頻繁に破壊行動をしてないみたいだって言ってるけど」 「そうだよなあ…」 円堂がそう呟いたその時、いきなりバッグの中の携帯がけたたましく鳴り始めた。突然の事で驚きながらも通話ボタンを押すと、二日ぶりの瞳子の声が電子音まじりに聞こえた。しかしそれはいつものような冷静な声色ではなく、焦りを含んだ声だ。 『円堂くん、側に豪炎寺くんと風丸くんはいる?』 「は、はい、いますけど…というか何で俺の番号知って」 『今どこにいるの?』 「鉄塔広場です」 『…そう…仕方ないわね…』 電話線越しに瞳子の項垂れるような声がして円堂は嫌な予感を感じ取った。一拍置いて瞳子は冷静さを取り戻した声で告げた。 『鉄塔広場付近で巨大な敵性反応があるの。今までとは違う…多分エイリアの親玉格。でも運が悪い事に今から東京中の人員を動員しても、到着までに最低10分はかかってしまう』 「…えっと、それってまさか」 『いきなりの実戦投入で悪いんだけど、あなたたちに時間稼ぎを頼みたいの』 「やっぱり…」 すぐに前線メンバーを向かわせるから、と言って電話が切れた直後に広場の近くが不気味な紫色の光に包まれた。円堂たちも知る魔法のエネルギー光の色だ。 「…何となく話は分かったけど、どうする、円堂」 「行くしかないだろ」 「…だよな」 幸い近くにイナズマシンボルもある。円堂たちが戦うにはうってつけの場所なのかもしれない、と嬉しいのか悲しいのか複雑な気持ちになる。 三人はイナズマシンボルにバッジをかざし、何度目かになるパスワードを叫んだ。 「イナズマ!」 「爆熱!」 「疾風!」 『メタモルフォーゼ!!』 三色の光が鉄塔広場上空に伸びる。着ていた服が光になって消え、代わりに新しい光を纏いながら強化服に変わっていく。 光が途切れ、三人は紫色に光る目下を見下ろした。 「10分、守り抜けばいいんだな」 「ああ、10分」 「10分もこの格好か…」 豪炎寺と風丸が手を重ねたその上に円堂の手が重ねられた。 「きっと何とかなる。――行くぞ!」 「「おう!」」 重ねた手が解け、三人は一斉に光の中へ走り出した。 |