「アメリカから来ました、一之瀬一哉です。よろしくお願いします!」 週明け一発目の衝撃を食らった。教壇の上ではきはきとした自己紹介をする人物は、まさに転校生であり帰国子女である。クラスの全員が彼に注目しているように、円堂と豪炎寺もその例に漏れず、特に円堂は転校生の姿に目を奪われて反らせなくなっていた。 「――でさ、もう皆から引っ張りだこで全然近寄れないんだよ」 「円堂お前、本当に転校生の勧誘が好きだな…」 「やっぱり部活にはメンバーたくさんいた方が良いしな!」 「豪炎寺も例外じゃないし」 「俺は入って良かったと思うがな」 「だろ!?よーっし放課後誘ってみる!」 屋上に集まって円を作り、弁当をつつく。今は昼休み中であり、三人は転校生である一之瀬の話題で盛り上がっていた。一人だけクラスの違う風丸は「転校生が来た」という事実は知っていたが、流石に帰国子女だという事までは知らなかったようだ。 「でもこんな中途半端な時期に転校なんて、よっぽどの理由だったんだろうな」 「まあでも明るくてとっつきやすそうな感じだったから、もう皆に溶け込めてるさ」 「そうだな…うわっ埃!」 風に乗った砂埃が弁当箱に入らないように瞬時に蓋を閉じ、一息ついた所で屋上の扉が重い音を立てて開く音がした。 三人は特に注目をしなかったが、次の瞬間思い切り扉の方へ振り向くことになる。 「――見つけた!」 「…い、一之瀬!?」 屋上に姿を現したのは一之瀬だった。一之瀬は円堂を見るや否や笑顔で駆け寄り、円堂と豪炎寺の間に身体を乗り出して割り込む。そしていきなりの事で呆然としている円堂に向かって曇りの一点もない笑顔で言った。 「俺をサッカー部に入れてくれよ!」 * 一之瀬のサッカーの腕前は想像を超えていた。華麗なドリブルや軽い身のこなし、素早いパスカット、そして何より必殺技の強さ。それら全てが円堂たちの前で次々と展開され、ゴール前で円堂はずっと目を輝かせている。 「一之瀬、お前すごいな!」 「アメリカでサッカーチームに入ってたんだ」 そう言いながら一之瀬はボールにスピンをかけ、シュートの体制に入る。円堂はそのシュートに心を躍らせながら受けの体制を取った。 「スピニングシュート!」 「ゴッドハンド!」 一之瀬の放ったシュートは吸い込まれるようにゴールに迫り、それを円堂は右手でがっちりと受け止めた。少しだけ後ずさり、スパイクが土を引っ掻く。 砂塵が切れたその後に、円堂の歓喜に満ちた声が響く。 「すっ…げー!やっぱすごいぜ一之瀬は!手にビリビリ来た!」 「円堂、君もだよ。君とプレイできるなんてこれから楽しみだ!」 そう言って一之瀬と円堂が笑った時、下校時刻を告げる放送が響いたのだった。 |