魔法少女 | ナノ

「じゃあ二人共、留守番頼むね」
「アンタも物好きだよなぁ、わざわざ相手方を偵察するなんてよ」
「何が楽しくてこんな日曜に外に出たがるんだ」
「年中引きこもり状態の二人には分からないよ。こう、一般人を装って一人カラオケしたりミスドのスクラッチを大量ゲットしたりする楽しさはね」
「…聞いててこっちが淋しくなる休日だな」
暗い部屋の中に三色の光が映し出され、三人分の影を切り取っている。白い光の下で弾んだような、しかし落ち着いた声がしたかと思うと、赤と青の光の下からそれぞれ生暖かい返事が返ってきた。しかし白の光の中の人物はそれをさして気にとめず、ふっと笑って言った。
「それじゃ行ってきます、バーン、ガゼル」
「程々にしとけよグラン」



「ファイアトルネード!」
気迫のこもった豪炎寺の声と共に、ボールは炎を纏ってゴールに突き刺さる。円堂は揺れるゴールネットを横から見て感嘆の声を上げた。
「豪炎寺、またパワーアップしてるな!」
「最近妙に調子が良くてな」
着地した豪炎寺はそう言ってグラウンドの中央を見遣る。視線の先のディフェンスとミッドフィルダー陣の練習は、先程から白熱を見せていた。
「風丸もだな」
「円堂、お前もそうだろう。技に磨きがかかったような感じがする」
二人が見た方向には、風丸が次々とディフェンスをかわしていく光景があった。円堂も例に漏れず、部活が始まってからシュートというシュートを止め続けている。

「魔法の練習の成果…な訳ないか」
「魔法がどうかしたの?」
「うわっ!?」
一人呟いた円堂の背後から、いきなりソプラノの声が掛けられて背筋が張る。振り向いたそこには、タオルを持った木野の不思議そうな表情があった。
「木野か…びっくりした」
「あ、驚かせてごめんね。これ、使って」
「ありがとうな」
「ううん、今日円堂くんたちすごく調子が良いみたいだから、私も何か張り切っちゃって」
そう笑って木野は戻って行ったが、グラウンドの外では夏未が真剣な眼差しで練習風景を見ていた事に、円堂たちは気づかなかった。


「はー!久々に目一杯部活できたー!」
部活も終わり、サッカー部の面々はそれぞれ帰路につく。円堂たちも珍しく瞳子からの召集がなく、本当に久々に普通の生活を送っているのだ、という感覚を全身で感じていた。
「誰かいるぞ」
「ほんとだ…何だ?雷門の生徒か?」
校門までの道を歩いていると、ふとその門の向こうに同じくらいの年齢の人影を見つけて豪炎寺が呟いた。円堂と風丸もその影に目を向けるが、今日は休日、部活動の生徒でもなければ敷地内にはいないはずだ。一人で校門の前にいるなんて不自然な事だと三人は首を傾げる。
「…不審者か?」
「いや…それはないと思いたいんだけど」
「なあなあ!君雷門の生徒か?」
「円堂おおおお!!」
豪炎寺と風丸の会話を全く聞いていなかったかのように円堂が門まで駆けていく。豪炎寺と風丸もその後に続いた。

「ここの生徒じゃないよ。ただ部活の様子を見てただけ」
「もしかして君もサッカーするのか?」
「少しだけ、だけどね。俺はヒロト。基山ヒロト」
「ヒロトか!俺円堂守!週末は部活やってるから、いつでも来てくれよな!」
淡泊な口調でその少年、ヒロトが言えば円堂は真夏の日差しのような笑顔で手を差し出した。ヒロトは一瞬きょとんとして、躊躇いがちに右手を差し出す。

「あ…じゃあ、俺用事あるから…」
「ん?そっか、邪魔してごめんな。じゃあな!」
追い付いた豪炎寺と風丸が去っていくヒロトの背を見送りながら「やっぱり不審者じゃないのか?」などと円堂に呟くが、当の円堂はというと全くヒロトの行動を疑問視していないらしい。
「別に変な奴じゃないさ。手握って分かった。あいつ、きっとすげー力のあるプレイヤーだぜ!いつかヒロトとサッカーしてみたいなあ」
「円堂がそう言うなら別に構わないけどさ…」
未だ不安の気色が拭えない風丸が呟けば、円堂は真っ先に駆け出して鉄塔広場への近道を目指していた。どうやら、特訓したい気持ちに火がついたらしい。
円堂を追うようにして、二人も走り出した。ひとときの日常に身を浸す喜びを噛み締めて。



「おー、帰ってきたか」
「収穫はあったか?」
「…バーン、ガゼル。…俺、」
「?」
「……俺、仕事やめる」
「…は、」
「俺、仕事やめて円堂くんたちとサッカーやる!手を握って感じたんだ…運命だって、円堂くんしかいないって!」
「「はああぁぁあぁ!?」」
「リア充消えろとか、ただのひがみだったんだよね。決めた、俺リア充になる!」
「早まるなグランンンン!!」

こっちもこっちで、また一つの事件。