小説―other | ナノ

高校の時からの親友である日向が、今度結婚するらしい。高校を卒業してしばらく経つが、久々に彼に会いたくなった。
何でも二人は高校時代から付き合っていたそうだが、その女の子の身体が不自由なため、ずっとその子の家に通っては介護の手伝いをしていたそうだ。幸いにも彼女の身体は順調に回復していると聞き、電話越しに嬉しそうにそう話す日向の声につられて俺も笑った。
紹介したいし今度来いよ、と言われたので、その言葉に誘われて俺は今、日向の家に向かっている。日向の家から彼女の家まではそう遠くないとの事だった。

本当なら奏も連れていって日向を紹介してやりたかったが、生憎大学のサークルの旅行が入っていて暫く帰ってこれない、と言われてしまった。仲の良い友達が一緒に行こうと誘ってくれたんだと嬉しそうに微笑まれては、何も言えないだろう。

俺が通っていた高校は今時珍しい所謂マンモス校で、日向とは同級で友人と言っても家が離れていた。だから会うのは本当に久しぶりで、自然と足取りが軽くなる。速くなる足で日向の家のある住宅街まで辿り着けば、前方に見える黒い屋根の家の前で明るい青髪の持ち主が手を振った。

「日向!」
遠くの日向に聞こえるように俺は名前を呼んで早歩きになった足を踏み出した。すると日向がいきなり焦ったような挙動になり、危ない、と叫ぶ。その声を聞き終わる前に、左半身に何かがぶつかったのが分かった。


それは、まだ小さな子供だった。
その子供は、衝撃で地面に尻もちをついた状態のまま止まっている。すぐさま俺は大変な事をしてしまったと焦った。しゃがんで両脇に手を入れて立ち上がらせようとすれば、その子はごめんなさい、と申し訳なさそうに俯いたまま呟いた。

「謝らなくていいよ、俺の方こそごめんな。痛かったよな」
「でも…」
「おい音無、大丈夫か?」
未だに俯いたまま顔を上げようとしないその男の子に、駆け寄ってきた日向は「あっ」という表情をした。そして日向が口を開いて何かを言いかけた時、男の子の出て来た家からまた一人、顔つきのよく似たもう一人の子が駆け寄ってくる。

「お前、」
「文人、大丈夫?」
「兄さん…」

双子だろうか。同じくらいの身長に同じ色の髪を持つこの二人を、日向は知っているようだった。
文人と呼ばれたその子供は、日向を見るなり訝しげな表情をした。日向の事が苦手なのだろうか、と思って二人の出て来た家の表札に目をやれば、黒い輝きを湛えたそれには「直井」の文字が刻まれていた。どうやらこの子供は直井文人というらしい。
「あの、本当にすみませんでした」
「もう気にしなくていいよ、怪我ないか?」
「あ、はい…」
「お前なあ…ちゃんと前見て走れよな」
「貴様には関係ない」
「毎回思うけど何だよこの差は!」

目の前で行われる漫才のようなやり取りに、思わず吹き出してしまった。それを兄の背に隠れた小さな当事者が不思議そうな瞳で見つめる。大きな瞳は、なぜだか懐かしい感じがした。手の平でポン、と頭を撫でれば、泣き出しそうにその目の光が揺らぐ。

「あ、の」
「ん、嫌だったか?」
「そうじゃなくて、えと…1つ、聞いても良いですか」

たどたどしく紡がれた声に出来るだけ優しい声で「良いよ、何だ?」と答えれば、眉尻を下げて僅かに紅潮した頬をそのままに、彼は言った。



「前、どこかでお会いした事ありませんでしたか?」



( )


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -