小説―稲妻 | ナノ

ゲーム2設定
これとは違うけど趣旨は同じ




「…どうしてだよ、風丸、みんな」

黒いマントに身を包んだ風丸たちが、視界いっぱいに映り込む。吐き出した声は馬鹿みたいに震えていて、弱々しくその名前を呼んだ。

「こんなの、こんなの嘘だろ…!」

握った掌に力が篭る。ぎゅっと目を瞑って、受け入れたくない現実を否定した。耳だけが瞼の先の現状を伝えていく。目の前の風丸が何かを取り出す布擦れの音がした。

「円堂、ここでお別れだ」

聞いたこともないような冷たい風丸の声が、耳を突き抜けて意識を現実に呼び戻す。目を開いて彼を見れば、眉をひそめて俺を見下ろしていた。その手には、黒いサッカーボール。
「やめろ風丸!」
咄嗟に叫んだ時には既に遅かった。風丸の手からボールが滑り落ちる。そして俺の、俺たちの目の前でそれは蹴り出された。
黒い軌跡は俺の真横を掠め、真っすぐ校舎に向かって飛んでいく。それが今、信じられないくらいに長く感じた。まるでスローモーションのようにゆっくりと、泣きたくなるくらいの時間をかけて。

真後ろで校舎が崩れる音がした。風丸がどこか悲しそうな表情を浮かべていたのが、やけに鮮明に映った。



自分の心臓が思い切り脈打つ感覚に目を覚ました。部屋の天井の白さが、視界いっぱいに映り込む。俺を見下ろして嘲笑っているように。

(夢――?)

そんなことあるはずない。あんなにリアルな感覚が夢なはずがない。それに夢だったとしてもどこからが夢なのかがまるで分からない。ばっと起き上がり、周りを見渡せばそこは確かに俺の部屋だった。

「守ー!いつまで寝てるの!」

階段下から母ちゃんの声がする。まだ耳の奥には鮮明に、校舎の崩れる音が残っていた。それに上塗りするように下からの声は俺を叱咤する。

やはり、夢か。悪い夢だ。本当に。
ゆっくりとベッドから下りようとしたその時、母ちゃんの声が信じられない言葉を叫んだ。

「今日からまた練習始まるんでしょー!もう、全国優勝したキャプテンが遅刻なんて恥ずかしいわよ!」

(これって――!)

あの時と同じだ。エイリア学園が雷門中に攻めてきたあの日の朝と。この後俺は河川敷に行って、みんなでトロフィーを持って喜んで、それで。
目覚めた時以上の大きな音が、俺の左胸で脈打った。冷や汗が全身から吹き出る感覚が気持ち悪い。もつれる足もそのままに、机上のカレンダーを見た。赤いバツ印は練習の始まる日の前日までカレンダーを埋め尽くしている。
つまり、今日は。信じられないようなこの状況は。

「時間が、巻き戻ってる……!」



河川敷には嬉々としたみんなの姿があった。俺はまだ半信半疑で、染岡に「今日って何月何日?」と問い掛けたら「お前、一番楽しみにしてたくせに何言ってんだよ」という前置きの後に、カレンダーで見た日付と同じ答えをくれた。

こんなこと普通じゃない。どこかで現実を否定しながらも、心の片隅ではこの状況を喜んでいる自分がいた。
本当に時間が巻き戻ったのだとしたら、上手くいけばあの最悪の結末を変えられるかもしれない。それだけじゃない、あの結果に行き着くまでに後悔した出来事がいくつもあった。豪炎寺のこと、吹雪のこと、ヒロトのこと。そういうことを変えられるかもしれない。誰も傷付かないような結果に。

何故俺だけ時間遡航ができるのかは分からないけれど、もしかしたらこれはチャンスなのかもしれない。
ふと見れば、俺の知ってる風丸の笑顔があった。俺を見下ろすあの表情はどこにもない。それが無性に切なくなって、胸のあたりがきゅう、と抓られる感覚を覚えた。

「なあ、あれ何だ?流れ星とは違うよな?」
「まだ昼間だぞ」

きた。巻き戻った時間の関係上、これを変えるのは難しいのだろう。
だったら、俺は。

黒い光が雷門中に落下する。地響きと轟音と共に、みんなの悲鳴が木霊した。足元からビリビリと伝わる振動が俺に伝えてくる。
これは、現実なのだと。


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