小説―稲妻 | ナノ

3月にしては暖かい日だ。よく晴れた景色の中、結局馴れ親しんでしまっていた雷門中の校舎を見上げるように仰げば、太陽は一番高く上っていた。
携帯電話を開けば、帝国の面々からのメールで溢れ返っていた。添付された写真に少し頬が緩んでしまうのを隠すように、袖口で口元を覆う。人々の喧騒もどこか晴れやかに聞こえるようだ。

「おーい鬼道!お前も来いよ!」
「円堂」

部室の方からふいに円堂が現れ、俺の名前を呼んだ。遠くで大きく手を振るその周りを、見慣れたサッカー部の部員たちがずらりと取り囲んでいる。
円堂の隣の風丸は、手にしたカメラを軽く持ち上げて俺に見せた。成る程、ひどく単純で分かりやすいが彼ららしい。

「部室の前で記念写真か」
「そう!サッカー部のみんなでさ」
「全国大会の写真ちゃんとあるか?」
「豪炎寺さん、オレ豪炎寺さんの隣が良いです!」
「ほらお前ら、ちゃんと詰めろって」

好き勝手に盛り上がる部員たちを風丸がまとめ上げ、俺もその中へと押し込まれた。風丸からカメラを手渡された宮坂が、少し下がった場所からレンズを覗く。

「じゃあ撮りますよー!皆さん良いですか?」

はい、チーズ。という声と共にシャッターが切られた。撮り終えたカメラを手渡した宮坂は、風丸から制服のボタンを貰って笑う。「陸上部は任せてくださいね!」という頼もしい言葉に、風丸も微笑んでいた。

「豪炎寺ボタン全部取られてるんだぜ。袖のも全部!」
「予備があるから離任式は大丈夫だ」
「鬼道はちゃんと付いてるんだな」
「いや、春奈に頼まれているんだ」

学ランの前が寂しくなった豪炎寺を見て、思わず笑いが込み上げた。式の途中で歌う姿からは何だか考え付かず、円堂と共に背中を叩き合う。それが今では一層恋しい。

「…よくここまで大きくなったなあ」

喧騒の中心で、円堂がポツリと呟いた。
サッカー部を最初から知っているメンバーはうんうんと頷く。そして部室を振り返った。一度は壊されもしたが、変わらず部員たちを見つめてきたそれを見て、円堂が破顔する。

「俺、雷門のサッカー部が皆で、スッゲー良かった!楽しかったぜ!」

円堂がそう言って笑った瞬間、周りにいたメンバー全員がわっと詰め寄った。ぎゅうぎゅうと押し潰され、多少苦しい。だが嫌な気は全くしなかった。皆が皆を大好きなチーム。それが雷門なのだ。

「皆さん、こっち向いてください!」

春奈が持つカメラが、振り返った俺達をシャッターに収める音がした。いきなりの事に驚いたメンバーの表情を鮮やかに切り取りながら、軽やかな音が春先の空に響いて溶けた。

俺たちは今日、ここを旅立っていく。




(さよなら、またね)




「…あれ、これってもしかして監督たちの写真?それにこの壁の字って、」
「汚い字だな…読めないぞ」



『俺たち 最高! 雷門中サッカー部』


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