小説―稲妻 | ナノ

ゲーム設定
ケータイ連動で照美が増えたようです
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目の前に映るのは、僕と同じ顔。造形は同じはずなのに、どことなく自信に満ちた佇まいで一歩一歩近付いてくる。今はお昼の休憩時間で、みんなもう宿舎に行ってしまった。僕と彼(僕にも何と呼んだらいいのか分からない)だけが水道小屋の影に残されていて、つまり結果から言うと僕は彼に迫られていて逃げられないのだ。

「…何をするつもりだい」
運悪く、この場所は木々と建物で死角になっている。何をされたとしても気付いてもらえないし、壁を背後にした僕には逃げ場もあったものじゃない。あまり騒ぎ立てたくはないし、第一そんな事をした暁にはみんなから理由を聞かれて、僕の分が悪くなることは目に見えている。

「君が僕なら分かると思うけれど、僕は美しいものが好きなんだ」
「まあ…そうだね」
「だから僕は美しい僕が好き。好きになったものは手に入れたい。分かるかい?」
「…何となく予想はしてたよ…」

自分に言い聞かせるように考える。考えてもみろ、目の前の彼は、一番自信に満ち溢れ、神だ何だと言っていた頃の僕だ。今の僕が何を言ったところで無駄なだけなのは、少し考えれば分かったはずなのに。

彼は、美の女神の名を冠するに相応しい優雅な所作で、僕の頬にそっと触れた。慈しむような二つの瞳が僕を捉え、細められる。確信した。彼は僕が僕に手出し出来ないことを分かっていて、こんな風に迫っているのだ。

触れられた瞬間、ビクッと震えた僕を見て、彼は僅かに表情を曇らせた。彼がふて腐れたような表情で僕の両頬を包む。その時にはもう遅くて、彼は頬を包んだまま僕の唇に自身のそれを押し当てていた。驚きのあまり目を閉じることを忘れていた。目の前には閉じられた瞼を縁取る長い睫毛が映る。その瞼がふる、と震え、至近距離のまま見つめ合ったのは、果してどれ程の時間だったか。

「力入らなくなってる」
「き、君のせいだろう…!」
「ね、手こうして。怖くないから」
僕が一連の出来事に慌てふためいていると、壁に押し付けられたまま、彼は自身の手と僕の手を握らせる。もう諦めた方が良いのかな。そう思い始めておとなしく手を握らせれば、彼は「いい子」とふわりと微笑んだ。そしてやはりさっきと同じように、意味も分からないまま唇を重ねられる。全くもって拒否権などあったものじゃない。

しかし何ともまあ、二度目は訳が違った。息継ぎがままならないくらいの長い時間をかけて、ゆっくりと焦らすかのように唇を求められる。押し返そうにも手は繋がれたままで、苦しさだけが増していく。ようやく僅かに離れたと思えば、直後に再び深く口付けられた。歯列を割って押し入るかのように熱を持った舌が割り込んできて、頭の中が全部真っ白になる感覚を覚える。

「…くち、ちゃんと開けて」
「…っは、んぅ……」
実に恥ずかしいことだ。羞恥と情けなさのあまり涙まで滲んでくる。抵抗する余力も残っていなかった僕は、されるがままだった。力を失ってずり落ちそうになる身体を、何とか耐える。歯茎や上顎を執拗になぶられ、思う存分咥内を蹂躙した彼の舌がようやく出ていった。唇が完全に離れたとき、立っていることもままならない程に僕は疲弊していた。

「…あ、ありえない…」
「でも君は僕を嫌いになれないよ、僕は君だもの」

そう言ってぎゅっと抱き着いてきた彼もまた、僕と同じように僅かに息を切らしていた。ひょっとすると、虚勢を張っているだけで彼もこういうことに慣れていないのではないか。
そっと腕を回すと、抱きしめる力が強まった。所詮は二人とも、まだ子供であるらしい。


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2/22に乗り遅れた結果がこれだよ!
猫の日にあやかって照美にじゃれあってもらいました


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テーマ「人外ファンタジー」
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