小説―稲妻 | ナノ

ネッパー視点
キャラ崩壊、捏造激しい
ネッパーが恋する乙男

―――――――

部活が終わった後、着替えを済ませて帰ろうとしていた時の事だ。

雷門サッカー部に引き抜かれた一部の元プロミネンスとダイヤモンドダストのメンバー達は、そのまま雷門生として生活するようになった。始めこそギスギスしていたが、キャプテンである円堂の持ち前の明るさと言葉の持つ力によって、少しずつだが互いに打ち解けていった。それでも、まだトップだった二人の仲は良いとまでは言えないレベルだったが。

親睦が深まれば、自然と相手の中身も分かってくるものだ。対立していた頃には分からなかった優しさだとか、強さだとか。その中でも特に俺の中に深く印象付けられた人物――まあ端的に言ってしまえば、いわゆる片思いの相手になるのだが、それがかつてのライバルチーム、ダイヤモンドダストのリオーネだった。

そのリオーネが、部室を出ようとした瞬間の俺を呼び止めたのだ。
既に部室には数名しか残っておらず、その彼らも帰り支度を整えていたので、実質的に二人きりという願ってもなかったシチュエーションが完成した。今なら神仏に感謝してもいいとさえ思える。

そんな訳で内心歓喜の俺だったが、ここは冷静な部分をアピール、平静を崩すまいと精一杯真顔を作り「どうした?」と返す。リオーネが言葉を口にしようと唇を開いた。
しかし。

「リオーネにネッパー、帰らないのか?」
来た。何かと俺に突っ掛かってくる元ダイヤモンドダストメンバー、ドロル。幾度となく邪魔され、その度に復讐に燃える気持ちを煮詰めてきたのだが、今回もまたベストタイミングでやってきやがった。全然嬉しくない。
「あ、ドロル…調度良かった」
「何か用?」
「うん、実はちょっと二人に話があって」
リオーネは俺達二人を前に話を切り出す。遠くから円堂の「鍵宜しくなー」という声がしたが、そんな事今は二の次だ。

「(こいつ、謀りやがったな)」
意外に計算高い仮面の男を横目で睨む。表情は隠れていて見えないが(そういえば感情が顔に出やすいから仮面をしているんだったか)、無言でも分かった。男の勘ってやつだ。奴は、俺と同類だ。つまり、互いにライバル関係なのだ!

「で、リオーネ。話って?」
「うん。実はこれ、この前ヒロト様に頂いちゃって」
エイリアの括りが無くなった今も、律儀に様呼びをするリオーネの口から出たのは、意外な人物の名前だった。
その手に握られていたのは、薄い紙二枚。見れば、『ケーキバイキング半額券』と書いてあった。店の名前に疎い俺でも分かる人気店のものだ。

話がだんだん見えてきた。それは隣の男も同じようだ。さてはあの人、俺達がリオーネに向ける感情を知っていて仕組んだか?どこまでも油断ならない人物だ。正直恐ろしい。
そんな事を0.3秒で考え、頭を瞬時に現実に引き戻す。問題はそうだ、どちらが一緒に行くかだ。

「これ、良かったら」
「ちょっと待ってリオーネ。俺達にも考える時間が欲しい」
「ああ…少し時間くれねえか」
「え、わ、分かった…」
多少驚いているリオーネを前に、俺とドロルは目を合わせた。テレパスだテレパス。同じ男同士、これ位できなければ。

『てめぇまさかとは思うが、もう一枚の方狙ってんじゃねえだろうな』
『そういうそっちこそ、最近までリオーネを避けてたくせに調子の良い』
『過去は関係ねえだろ!重要なのは今どう思ってるか、だ!』
『残念だけど気持ちだけじゃどうにもならない』
『じゃあ何が必要だってんだ』
『リオーネの意思だよ』

そこではっとなる。そうだ、最終的に決めるのはリオーネ自身。いくら競り合いで俺が勝ったとしても所詮得るのは満足感だけ。本人がドロルが良いと言ったらそこで負けるのだ。何たる誤算、恥ずかしい。アトミックフレアの消し炭になりてえ!

「ね、ねえ…そろそろ、良いかな」
控え目に呟かれた声に意識が戻る。同時に緊張が身体を支配した。リオーネはどちらを選ぶんだ?俺か、ドロルか。この緊張感はドロルも同じらしい。こんな時にだけ多少の仲間意識を感じる。リオーネが再び口を開いた。正々堂々、いざ勝負!

「これ、二人に貰って欲しいの」

ガンッ、と頭を鈍器で殴られた感じがした。待て待て、今リオーネは何と言った?二人に貰って欲しい?何故だ、何故なんだ。それでは勝敗はおろか、勝負すら最初から成り立たないじゃないか――

「あ、あの、リオーネさん?」
「二人、あまり打ち解けられてないみたいだったから。皆心配してるんだよ?だからここに行って、仲良くなるきっかけを作れたらなって」

そういう事かよ!!

いや男二人にケーキバイキングはどうなんだとかそういったツッコミは胸の内に何とか押し込み、善意の塊で差し出された紙切れを断る事もできず受け取ってしまった。隣をチラッと見れば、仮面によって演出されたポーカーフェイスは何処へやら、困惑の色を全面に湛えたドロルがあった。

同情する。全面的に。

リオーネは、用は済んだとばかりに足軽に立ち去り、最後に「二人が仲良くなってくれるの、皆願ってるから!」と嬉しいのかそうでないのか判断に困る言葉まで付け、校門の外に消えた。
取り残された俺とドロルは、夜風に吹かれしばし立ち尽くしていた。心なしか、風がいつもより冷たく感じる。

「…ドロルくんよぉ」
「……何だ」
「…今度の日曜、空いてるか」
「…ああ、何も用事はない」

リオーネが消えた後の校門を二人揃って見つめたまま、多少苦い週末の予定が決まった瞬間だった。


「「(しょっぺーなあ…)」」