小説―稲妻 | ナノ


「吹雪、お前ちゃんと食べてるか?」
午後の練習も終わり、これから夕食だという時に綱海くんに心配そうな表情で話し掛けられた。何の事かよく分からず振り向いて首を傾げれば、綱海くんも一緒にかくんと首を傾ける。
「急にどうしたの?」
「いやさ、最近よく心配になるんだよ」
「心配も何も、綱海くんいつも一緒にご飯食べてるじゃないか」
「そうだよなー、やっぱ大丈夫だよなあ…」
「一応聞くけど、何があったの?」
顎に手を当てて唸る綱海くんに疑問を無視し切れなくなった僕は、何の気無しにそう聞いてみた。次の瞬間想定外の答えが返ってくるとも知らずに。

「吹雪、ずっと背変わらないと思ってさ…」



思えば身長なんて暫く測っていなかったけれど、北海道に帰ってからFFIが始まるまでには3ヶ月もの時間が経っていた訳で。
綱海くんとは距離を隔てていた時間もその期間と同じだけある。怪我で一時離脱してからは更に2ヶ月あった。ずっと会っていなかったのだから、久々に会った時の印象の変化はきっと近くにいた人よりも分かりやすいだろう。だけど、3ヶ月経った代表選抜の時点で何も言ってこなかったということは、やっぱり僕が成長していないということなのだろうか。

何を隠そう、僕はこの身長がコンプレックスなのだ。

「染岡くんはどうやったら身長伸びたの?」
夕飯のハンバーグを切りながら、隣に座る染岡くんに尋ねてみた。知っての通り、染岡くんは身長が高い。イナズマジャパンメンバーの中でも上位に入るのではないだろうか。
染岡くんは何の前触れもなく投げかけられた質問に振り返ると、怪訝そうな表情で口を開いた。

「どうやってって言っても、普通に生活してたら自然とこうなってたとしか…」
「…ずるい…僕だってそんなに変わらない生活してるはずなのに…」
皿の上で一口大に切られたハンバーグの欠片をフォークでブスブスと刺していると、隣で染岡くんがはっとしたように僕を見る。でも今の僕には見下ろされているようにしか見えない。
「吹雪お前まさか…身」
「それ以上言ったらウルフレジェンドだよ」
「……悪ィ」


染岡くんはああ言ったけど、やっぱり何か確実な方法があるんじゃないだろうか。
大浴場の販売機の前で唸っていると、虎丸くんが「失礼します」と言って牛乳のボタンを押す。ガコンという音と共に牛の絵が描かれたパック牛乳が落ち、屈んだ虎丸くんの手に収まった。
「やっぱり牛乳かな…」
「吹雪さんも牛乳にするんですか?」
「そうだなあ…ねえ、虎丸くんはいつも牛乳飲んでるの?」
「え、俺ですか?いつもって訳じゃないんですけど、身長伸びるかなと思って!」

豪炎寺さんに追い着くためにも!と歯を見せて笑う虎丸くんは、僕より少しだけ小さいくらいだ。でもそこには2歳もの差がある。成長期の2年は大きい。
「…ちなみに、去年から何センチ伸びた?」
「えーと、確か8センチくらいです」

…僕、成長期に見放されてる?


「吹雪は別に今のままで良いと思うけどな」
「キャプテン…」
結局買ってしまった牛乳をちびちびと飲んでいると、隣にキャプテンが腰を下ろした。大方染岡くん辺りに聞いたんだろう。そういえば、僕よりは高いけどキャプテンだって小柄な方だ。キャプテンは気にならないのだろうか。
「走る時に小回りきくし、吹雪は脚速いから無理して伸ばそうとしなくても良いんじゃないか?」
「そうなのかな…でも、キャプテンは身長気にした事ないの?」
「んー…まあキーパーだし体格はがっしりしてた方が良いとは思うけど」
「……」
「でもだからってそれで全てが決まる訳じゃないし、自然に伸びるのを待ってる方が気が楽だろ?」

にっ、と笑ったキャプテンはそれだけで説得力があって、僕は自然とその言葉を受け入れてしまっていた。そうだ、まだ僕は成長途中だ。あと2、3年もすれば今の染岡くんを越すくらいにはなっているだろう。

「…そうだよね。そういえば、キャプテンはどれくらい伸びたの?」
「俺?5センチだけど」

…前言撤回。
やっぱり僕は必死になるべきのようだ。