小説―稲妻 | ナノ

※ゲーム3のネタバレ有


【リトルギガント所属のDFで幼なじみのW・Fさん】
ロココについて?そうだな…あいつとは小さい頃からの友達だから、他の奴よりは知ってること多いと思うぜ。
あいつ、小さい頃は泣き虫だったのに、サッカーやり始めてからはみるみる強くなったんだ。それに明るくなった。自信が持てるようになったんだろうな。
ただ、ロココの私生活の面はいくら俺でもフォローし切れない部分があるというか…何だ、まあもう慣れたけど、多分慣れない奴が見たらびっくりする事が多いだろうな…

【コトアール在住、リトルギガント監督のD・Eさん】
ロココについてか…。ワシはあいつがまだ本当に小さかった頃から一緒に暮らしてるが、どこをどう間違えてああなったんだかワシにも分からんな。
普段は素直で聞き分けもいい弟子だが、ひとたび『選手』と『監督』から解放されると、とんでもない事をする奴だ。育った環境や風習のせいかと思ったが、周りはそうでもなかったしな。恐らくロココ自身の性格なんだろう。注意しても治らないんだ、こればかりは…将来的に困るから治せと言っているんだが、ワシが生きている間に果たして治るかどうか…

【元リトルギガントマネージャーのN・Rさん】
私が初めてリトルギガントの宿舎に呼ばれた時、ロココの行動に卒倒した事は今でも忘れないわ…。
サッカープレイヤーとしての彼しか知らないなら、踏み込むのはそこまでにしておきなさいと言うわ、あの子のイメージを大切にしたいならね。決して悪い子じゃないのよ?優しく接してくれたし、真面目で一生懸命だし。
ただ…彼の癖とでも言うのかしら、とにかく自由奔放なのよ。行き過ぎた野生児というか、半分獣に育てられたみたいというか…。
そこが彼の個性と言うのなら私からは何も言えないわ。それを踏まえて接することね。



なあじいちゃん、じいちゃんは今までどうやってロココと暮らしてきたんだ?俺に教えてくれ、ロココとの付き合い方。

国が違うなら文化も違うことは分かってる。それはちゃんと理解してたつもりなんだ。だけど、皆の言うとおり、俺本当にびっくりしたよ。コトアールの人が皆そういう訳じゃないんだって聞いて、ますますどうしたら良いか分からなくなっちまった。妥協してもしきれねえよ。誰か、誰か助けてくれ。

だって、普通驚くだろ?
振り向いた友達が、何気ない顔でバッタ食ってたら。

「あっマモル!マモルの部屋って広いんだね!僕の部屋より広い!」
「あ、あぁ…そうか」
「それに、僕初めてニホンに来たけど、良いねえこの国。夏場は食料に困らないし!」
「ありが、と…」
「そうだマモル、僕お土産持って来たんだ。昔師匠に貰ってから大好きなんだ。僕のとっておき!」

そう言って鮮やかな緑色のバッタを飲み込んだロココは、バッグをガサゴソと探り始める。遊びに来いよと誘った手前、帰って下さいと言えるはずもない。というか本当はこんなはずじゃなかった。一緒に雷門の皆とサッカーして泊まったり遊んだりして、楽しく過ごすはずだったんだ。右手のバッタを見るまでは。
現に驚きすぎて、俺はお茶が乗ったお盆を持って部屋に入った瞬間から、直立不動のままだ。

「はい、どうぞ」
「ロココ…これって…」
「『イナゴノツクダニ』だって!美味しいんだよ」
両手にずっしりと重い瓶に入った、黒くてそれでいて形のしっかり残っているそれ。紛れもない虫だ。イナゴだ。グロい、グロすぎる。大方虫ばかり食べるロココに見かねたじいちゃんが与えたものだろう。何て逆輸入だ。正直バッタとそう大差ないだろうこれは。

そういえば夏未が言ってた気がする。マネージャー時代、チームみんなに好物を買って振る舞ってやろうとして好きなものを聞いたら、ロココが「兎とイナゴ」と答えたと。スタジアム前の主人とはぐれた兎を、獲物を狩るように俊敏に追いかけ回していたと。

「ロココ…お前普段何食ってんだ?」
「え?うーんとね、」
「ああああやっぱいいや!うん!そうだロココ、煎餅食べよう煎餅」
自分で馬鹿な質問をしたと思った。聞いたら終わりだ、と心の警鐘がけたたましく鳴っていた。話題を逸らすために、一緒に持ってきていた茶菓子から煎餅を取り出したら、ロココは無邪気にも「ありがとう!」と笑ったから、少しだけ安心した。

「うわあ、パリパリしてて美味しい」
「だろ?今度からこれ食おうぜ」
「うん、あ、そうだマモル」
「何だ?」
ロココが煎餅を片手に、もう片方の手をバッグに突っ込む。嫌な汗が背中を流れたのが分かった。

「マモルってウサギとか、好き?」