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「こんにちは。マサキ、久しぶりだね」
「……こんにちは」

貼り付けたかのような完璧な笑顔を携えて、その人はやって来た。

最後に会ったのは確か、俺が小6になる年の正月だっただろうか。今年の正月は風邪をこじらせて寝正月を余儀なくされていたから、会う機会などなく無慈悲に正月休みは過ぎたのだった。

「しばらく会わないうちに随分身長伸びたね」
「そりゃー成長期なんで」
「あはは、愛想のなさも増してる」
「余計なお世話ですよ」

俺はどうもこの人の俺に対する扱いが気に入らない。
子ども扱い甚だしく、親のような目線で話しかけてくる。一回りも年が離れれば必然的にそうなるのかもしれないが、それにしたって弟分というよりかは息子のように接してくる。子供扱いするな、なんて口に出せばまたからかわれるから絶対に言わないけれど。

玄関に上がるまでの動作にしたって、至極丁寧に靴を揃えるところとか、しゃがむ時の仕草とか、いちいち完璧すぎるくらいデキていて正直羨ましいくらいだ。苦手意識だけを持っているわけじゃないけど、微妙な間隔を空けた親戚の兄貴分というにしたって、いちいち差を見せ付けられているように感じる。

そんな事を悶々と考えながらリビングのドアを開ければ、待っていたかというように母さんの喜々とした声が弾けた。

「ヒロト君久しぶり!今日はごめんね、わざわざ来てもらっちゃって」
「いえ、これくらいしかお役に立てないですから」

俺の親戚――ヒロトさんは、ロボットの人工知能を設計するプログラマーのような仕事をしているらしい。
職種については詳しいことは知らないけど、とにかくロボットのことついては俺の知っている誰よりも詳しいと断言できる。
ヒロトさんはリビングのソファに座ったままのロボットを見るやいなや、おもむろにその傍まで歩み寄り、かがんで視線を合わせた。

「はじめまして、俺は基山ヒロト。君のこと、よく知りたいんだ。今日はよろしくね」

ぴくりとも動かない表情を前にして、そうのたまった。あの完璧な笑顔を湛えて。
俺がこの人を苦手とする理由はこれだ。母さんと同じように、ロボットを人間みたいに扱う。ロボットを機械だと誰よりも認識してなきゃならないような人なのに、生身の人間を相手にするみたいな口調で語りかける。実際目にしたのは初めてだけど、事実であったことに妙な感覚を隠せない。

神童キャプテンが死んでからというもの、目にする耳にする沢山の事柄に否定的になってしまっているのが、自分でもはっきりと分かった。
ここに居たままでは、何か失言してしまいそうだ。
自分でもおぼろげにしか掴めないこの感情を処理するには、隔絶された空間にじっとしているしかない。周りの一切合財を遮断してしまえるような壁が必要なのだ。

「俺、部屋行っていい?」
「ええ?せっかく来てくれたのに」
「…マサキ、部活やってないんだ?」

踵を返そうとする俺を、ヒロトさんが呼び止める。その声に振り返って「休みなだけですけど」と答えれば、にっこりと弧を描いた微笑みが返ってきた。

「話、聞かせてよ」

どうやら、俺はこの空間に縛り付けられてしまうらしい。
自分でも想像がつかないような酷い表情をしてしまっていたのか、ヒロトさんがクッと笑いを噛み殺したのが分かった。



04 emotion


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