カノンは、残り僅かとなった夏休みの活用法について悩んでいた。溜まりに溜まった宿題が第一の悩みの種であり、部活動が最終日まで休みだという事が第二の悩みだ。 悩みや迷いがある時はこの鉄塔広場でボールを蹴るようにしている。ただ無心になってボールと向き合う事で、思いがけない解決策が見付かったりするものだ。 (みんなして宿題とか旅行とか、部活が無いなら無いで暇じゃないじゃん) 不満の心を僅かに乗せた蹴りは、カノンのコントロールから外れ、あさっての方向へと転がった。一瞬気を抜いてしまった。今ここに彼の曾祖父がいたならば、ボールに真剣に向き合えと叱られてしまっただろう。 「あっ…すみません、そのボール俺の…」 慌ててボールが転がった先に走ると、階段下でそれを手にしていた人物が目に入る。駆け寄ったカノンは、その見覚えのある人物に目を見開いた。 「…バダップ…?」 忘れもしない、あの日戦ったチーム・オーガのキャプテン、バダップ・スリードだった。 「お前は…」 「カノンだよ!円堂カノン!え、どうしたの?何でここにいるの!?」 バダップはほんの少しだけ驚きを浮かべて、カノンの大きな目を見た。対するカノン自身は、驚きと興奮が隠しきれないといった様子でバダップに疑問をぶつける。 バダップはカノンの勢いに若干押されそうにになりながらも、一定距離を保っている。円堂家の人間というのは、どうも冷静沈着なバダップの調子を、僅かながらも狂わせる血筋らしい。 「実家に帰省していただけだ」 「実家って…バダップの家ここから近いの?」 「いや…もっと郊外にある」 「へえー、何でこんな中途半端な時期にまた」 次々と投げかけられる質問の雨霰を、バダップは淡々と打ち返していくようだった。それでも止まらない質問攻めを一旦区切るかのように、バダップは短い溜め息をついて口を開く。 「…お前は何故それ程までに俺に興味を示す?」 「何故って、俺がバダップのこと何も知らないからに決まってんじゃん!」 カノンは、ニッと歯を見せて笑った。その表情が、彼の曾祖父のものと重なってバダップの瞳に映される。胸を張って答えたカノンの答えに、バダップは僅かに目を見開いた。 「俺、あの試合の後からずっと思ってた。バダップたちとまた会ってちゃんと話してみたい、って。ひいじいちゃんから言わせればさ、試合が終わればみんな仲間なんだよ。だからまたこうやって会えて、俺スゲー嬉しいんだ!」 カノンがバダップの瞳を見つめて言う。慣れない感情を向けられ、バダップが上手く返答できずにいると、カノンが引っ張るように続けた。 「バダップは何日までいるの?」 「…31日の、夕方まで」 「じゃあさ、その日まで俺に付き合ってよ!」 「な…っ」 カノンの直球に思わずどもってしまったバダップに、カノンはもう一押しと言わんばかりに言った。 「あと4日だけだけど、俺もっとバダップの事知りたいから。だから、俺と友達になってよ!」 |