「明日、卒業式だね。」
「あぁ。」
屋上で二人、フェンスに背を預け空を見上げている。
「明日でお別れだね。」
「あぁ。」
びゅうう
と一陣の風が私と慎吾の間を駆けていく。
私は風に乱された髪を掻きあげた。
暦では3月は春と言ってもまだまだ寒い。
今の風はまるで今までの熱をさらっていくような……
例えば、あの忘れられない夏だとか、二人で過ごした日々だとか……
「楽しかったね。」
「あぁ。」
「さっきからそればっか。」
「あぁ。」
ちらと横目で慎吾の方を見れば、いまだ空を見ていてこっちを見る気配はない。
「お前は留学だっけ。」
「うん。」
「どこだっけ。」
「イタリア。」
「そっか。」
「慎吾は東京の大学に進学だよね。」
「あぁ。」
私は自分の足元を見る。
足首には夏、みんなのためにおそろいで作ったミサンガがつけられている。
目をつむり、今までのことを思い返す。
楽しかったこと、辛かったこと、嬉しかったこと……
私は卒業とともに別れるという二人で決めたことに対し不満はない。
きっと、それが二人にとってプラスになるであろう最善のことだから。
「ねぇ、慎吾。」
「ん?」
「ありがとう。」
「は?なんだよ、いきなり。」
「ホントはさ、明日言おうと思ったんだけどね、きっと私、明日だと泣いちゃって言葉にならないだろうからさ。」
慎吾の方を見て今できる精一杯の笑顔をして見せた。
「だからさ、ありがと。」
「それは、オレの方が言っても言いきれねぇくらいだっつーの。」
慎吾も私の方を見て微笑んだ。
それは今までに見たことないような笑顔だった。
「壱。」
「なぁに?」
「ありがとな。」
「うん。」
慎吾の手が私の髪の方に伸びてきた。
触れるか触れないかのところで、その手は戻っていった。
「どうかした?」
「いや、」
そう言って慎吾は自分の手を見つめる。
「今、壱に触ったら決意が崩れちまいそうでさ。」
「そっか。」
私は空を見上げた。
3月の空はこれでもかというほどにすがすがしく晴れ渡っていた。
「じゃ、オレ、もう行くわ。」
そう言って慎吾はフェンスから離れ出口である扉に向かっていった。
その時私は見てしまった。
慎吾の目に涙の幕が張っているのを、見てしまった。
バタン
と扉のしまる音が聞こえる。
その音が聞こえたのと同時に私は冷たいコンクリートの上にしゃがみ込む。
泣くのは明日だけと決めていたがどうも無理なようだ。
今までこらえてきたものがせきを切ったようにとめどなく溢れ出す。
慎吾のことが好きだった。
いや、今でも……
どうかこれから先、彼の進む道は光で満ち溢れていますように。
ただただ祈る。
もし、もしもその光の先に少しでも私の影があれば……
なんて思う私は愚かだ。





キンセンカ別れの悲しみ





-------------------------
完璧に季節外れってゆうね^^;
まぁ、上がったネタは上がった時にどうにかするということで


回遊魚

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -