「冴木。」
「ん?」
後ろから名前を呼ばれて振り返るとそこには榛名がいた。
……"冴木"かぁ……
私と榛名は幼馴染である。
小学校に上がる前からわりと仲が良く、互いのことは下の名前で呼び合っていたんだけれど、今では苗字呼びだ。
というのも原因はある。
榛名が中学時代ケガをして荒んでいた時に私は少しばかり距離を置いてしまった。
なんというか近寄れなかったのである。
それから距離は縮まることなく高校2年生になってしまったわけだけど、昔に比べておもいっきし会話が減ったため話しかけてくることなんか珍しい。
まあ、私は野球部のマネージャーをしているのでまったく放さなかったわけではない。
「………。」
なぜか榛名は黙りこくっている。
いつまでたっても声を発さない榛名に対し痺れを切らした私は
「どうかしたの?」
と聞いた。
すると目の前にグッと榛名の握られた拳が差し出された。
「え?なに?」
「ほら、これ。」
それだけ言って榛名はグイッと拳を近づけてくる。
私はおずおずとその拳の下に手を出すと力強く何かを渡された。
それは小さな紙切れだった。
「なにこれ。」
「いいから読めよ。」
ん?
なんだか様子がヘン?
なんかソワソワしてるし……
「早くしろよ!!」
「はいはい。」
私はカサカサと四つに折られた髪を開いた。
そこに書かれていた言葉に私は心底驚いた。





"下の名前で呼んでもいいか?"





思わず榛名の顔を凝視してしまった。
「んだよ。」
榛名、真っ赤だ。
てか、
「紙に書く必要あった?」
「うっせ。口だとうまく伝えらんねぇんだよ。」
顔を真っ赤にして口元を隠す彼を見て何だか笑えてしまった。
「笑うなよ!!」
「ごめんごめん。」
「で、どうなんだよ。」
「ん?あぁ、いいに決まってんじゃん。」
私がそう答えたら榛名ははぁぁぁ、と長い息を吐いた。
「なに?どうしたの?」
「断んねぇってことは嫌われてねぇンだよな?」
「誰も嫌いなんて言ってないじゃない。」
「お前がいきなり苗字呼びにするから!!」
「あぁ〜、それで嫌われたと。」
なるほどなるほど。
それは悪いことした。
「あんときは距離置いちゃってごめんね?」
「別に。」
「"元希"。」
「あぁ!?」
声裏返っちゃってまぁ。
「私は元希のこと嫌いにならないからね。これ、絶対。」
「なっ……!!!!」
いやぁ、真っ赤だ。
と、いうことは意味を理解してくれたかな?
「オレもだっつーのバカ。」
なんだか、急に空気が輝きだした気がした。












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回遊魚


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