満月の夜。
私と慎吾は二人で散歩をしている。
ふと、慎吾が立ち止まった。
「壱。」
「ん?」
「好きだ。」
珍しく慎吾が真面目な顔してそう言った。
「慎吾、」
「あ?」
「言うの、遅すぎるよ……。」
「……。」
私は少し離れたところで慎吾を見据える。
「明日、私、結婚するんだよ?」
「……。」
「知ってるよね?」
「あぁ。」
「……。」
「……。」
沈黙が闇夜に吸い込まれてゆく。
あぁ、なぜ私たちは素直になれなかったのだろう。
互いの気持ちに気づいてたくせに。
1歩を踏み出すのをなぜ恐れていたのだろう……
「今のこと、忘れろ。」
「うん。」
「幸せに、なれよ。」
「うん。」
また、沈黙が訪れる。
月の光はなんて悲しげに私たちを照らすのだろう。
「慎吾。」
「あ?」
「あのね、」
私はあふれてきそうな涙を必死にこらえながら、どうか彼にこの言葉が届くように口を動かす。
「あなたのことが好きでした。」
もう届かない
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後悔だらけの青春。
回遊魚