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何故私がこんなことを思い出しているかというと、それはまぁとにかく今の状況に原因がある。

「俺なまえのこと好きなんだけど。」

……そう、本当に色々あるのだ、色々。
簡潔に今の状況を説明すると、凛月先輩が私を押し倒して上から見下ろして、先程の台詞を宣っている。うん、意味が分からない。もう少し遡ろう。

私は中学を卒業した後、真緒くんとは違う高校に進学した。高校に入学してからも真緒くんは私に連絡し続けてくれ、何度か遊んだこともあった。真緒くんと遊ぶのはとても楽しかった。その時にかわいいくまのぬいぐるみをもらったのも良い思い出である。しかし、高校進学後は中学生の時に持っていた真緒くんへの恋慕はいつの間にか薄れてしまっていたため、普通に真緒くんのことはお友だちだと思っている。それにも関わらず、何故か凛月先輩からも連絡が来るようになったのである。まず何故あなたが私の連絡先を、と思ったが、おそらく真緒くんから聞いたのだろう。そして不思議なことに、彼は私と遊びたいと言い、これまた何度か会う機会があった。前みたいなことがあったらどうしよう、とそれはそれは恐れていたが、ところがどっこい、何も無かった。普通にご飯を食べて、公園でお話しして、駅まで送ってもらって、お別れをする。これは、普通の友人に対する態度だ。 以前までの真緒くんとの仲を邪魔していた彼はどこへ……? と怪しく思っていたが、恐らく私が真緒くんに対してアクションをしなくなったからだろう。そう結論付けて、普通に凛月先輩とも仲良くした。会う頻度が多くなってくると、心なしか凛月先輩の態度も柔らかくなった。いや、むしろデレデレである。懐くとこんなにも人が変わるものなのか…………、と怖くなってしまうくらいだった。高校を卒業してもその関係は変わらず、真緒くんと凛月先輩とは友好的な関係を続けていた。そして、今日も凛月先輩と会う約束をしていた。今日も普通にお昼ご飯をを一緒に食べるだけ、そう思っていたのだが。

「あ、この辺ってなまえの家の近くじゃない? 」
「そうですね、そこの角曲がったらもう家ですね。」

ここ最近凛月先輩と遊んだ後は、家の前まで送ってくれることが多かった。いや、多いというよりほとんどそうだったか。凛月先輩の家はここから少し遠いはずなので、いつも申し訳ない気持ちになっていた。凛月先輩に住所を直接聞いたわけではないが、彼は真緒くんの家の近くに住んでいるはずなので、ここから駅が離れているというのはなんとなく分かっていた。

「あ、凛月先輩、良かったらうち来ます? 」
「……え。」
「今日家族みんな外出してるので大丈夫ですよ。いつも送ってもらってて申し訳ないですし、何かお礼をさせてください。」
「うーん……、まぁいっか。お邪魔しまーす。」

いつも送ってもらうだけでは申し訳ないと思っていたし、この機会にいつものお礼がしたかった。確か家にケーキが余っていたはずだからそれを出してお茶でもしよう。そう思って先輩を私の部屋に招いた。
ケーキと紅茶の準備を終え、私の部屋まで持って上がると、先輩は既に部屋の真ん中で寝っ転がっている。彼の手には真緒くんにもらったぬいぐるみがある。相変わらずの自由人である。先輩は私を寝っ転がったまま見上げ、なまえ、と呼びかけた。

「部屋思ったよりも綺麗だねぇ。すごくゴロゴロできる……。快適……。」
「はは、ありがとうございます。そのぬいぐるみ、真緒くんからもらったんですよ。あ、先輩これ、ケーキです。」
「え、いいの? 」
「はい、いつものお礼です。いつも送ってもらってますし、何かお礼がしたかったので。」
「……お礼。」

そういうと凛月先輩はのっそりと起き上がり、私をじっと見つめた。不思議に思いながら中央のローテーブルの上にケーキを置く。凛月先輩がなんだか急に静かになったので妙に居心地が悪い。なんだろう。私何かしたかな。

「……ねぇ、お礼って、他の奴にもこんなことするの? 」
「え? 」

途端に先輩に腕を引かれ、気づいた時には凛月先輩が私の体に跨っていた。何が起きたか分からない。しかし、これではまるであの時のようではないか。そう思った瞬間に嫌な汗が流れる。凛月先輩は、涼しい顔で私を見つめていた。しかし、彼の目はなんだか淀んでいるような気がする。

「ねぇ答えてよ。」
「な、なにが、」
「他の奴もこうやってお礼って言って家上げてんのかって聞いてんの。」
「そんな、ことは」
「……だとしたらちょっと不用心すぎない? 俺だったら良いって思ったの? 何それ、俺のことなんだって思ってるの? なまえにとって俺って優しい先輩? それともいつも遊んでくれる友達? 」

捲し立てるように話す凛月先輩に、私は何を言っているか考えることができずにただただ冷や汗を流していた。何故こんなに凛月先輩が怒っているのか理解ができない。ただ、私が先輩を家に入れたことに腹を立てているらしいことは分かった。凛月先輩は固まってしまった私の頬を手の甲で撫で、私に向かって口を開き、冒頭の言葉を吐いた。

「俺なまえのこと好きなんだけど。」

え、と口から漏らした私に、先輩がふっと笑いかけた。すると、彼の顔が少しずつ近づいてくる。中学生の時、凛月先輩とのことが頭に浮かぶ。いやだ、何でこんな時に思い出すんだろう。怖い、やめてくれ、

「なまえ! 」

バンっと扉が開いた。すると、凛月先輩の動きがぴたりと止まったと思えば途端に怪訝な顔をしながら扉の方向を見た。どこか聞いたことのある声だ。声の方向に顔を向けると、そこには見知った顔が立っていた。

「え……真緒くん……? 」
「うげぇ、来たか。」
「来たか、じゃねぇだろ! 何やってんだよお前こんなところで! 」
「やめてま〜くん、無理矢理引っ張らないで、痛い〜怖い〜……。」
「なまえの方が怖かったに決まってんだろ! なまえ大丈夫か? 怖かったよな? 」

そう言って真緒くんは私の体を起こした。真緒くんの太陽のような笑顔に私は本当の本当に安心した。先ほどまでの恐怖心が和らいだ。





いやそんなわけがない。
まず真緒くんは何故私の家に来ているのだ。彼は私の家を知らないはずである。仮に凛月先輩から聞いていたにせよ、私は玄関の鍵をきちんと閉めたはずである。なのに何故ここにいるんだ。しかしそんなことを本人を目の前にして言えるわけがないので、私はもう黙ることにした。勘弁してくれ。たしかに凛月先輩からの先ほどの行為は逃れることはできたが、この状況に全く安心ができない。むしろ懸念要素が一つ増えている。いや、私の考えすぎなのか、仮にも助けてくれたわけだし疑うのはよくないのかな「ねぇなまえ見てよこれ。」

凛月先輩はにこやかな笑顔で何かを私に差し出した。え。

「こ、これは……。」
「ん? 分かんない? ねぇ分かんないんだってさ、ま〜くん。なまえこれね、盗聴器と隠しカメラだよ。」
「え。」
「おい凛月。」
「これ誰が付けたと思う〜? ていうかどこにあったと思う〜? これだよ、これ。」

先輩は楽しそうにくまのぬいぐるみを私に差し出した。先輩の手にあったのは、真緒くんにもらったぬいぐるみである。理解できずに固まっている私を見て、先輩はクスクスと笑いだす。何がそんなに楽しいのだろう。

「ねぇ、まだ分かんないの? これ、ま〜くんに貰ったんだよね? 」
「そ、そうですけど、」
「じゃあこれはま〜くんがつけたんでしょ。気づかなかったの? 」
「……そ、そんなこと、ないよね、真緒くん。」
「…………。」

途端に真緒くんは黙り込んだ。嘘でしょう。嘘だと言ってくれ。

「ははっ。」
「ま、真緒くん……? 」
「嘘じゃないよ、それは俺が付けた。だって仕方ないだろ? 心配なんだよ、お前のことが。」
「……え。」
「はーやっぱり凛月の目は誤魔化せないよなぁ。いつから俺がこんなことしてるって気づいてたんだよ。」
「え、中学生くらいから? なんか逐一監視してるっぽかったからさぁ。高校離れたらどうするんだろうって思ったけどなんかあんまりにもなまえのこと詳しく話してくるから気になったんだよね。あー、やっと全部わかってスッキリした〜。」
「……な、何言ってるの、」
「それでお前急になまえに近付いたんだな。まぁ俺と一緒にいる時は別にいいけどさ、凛月と一緒にいれば余計に心配になるからあんま変なことすんなよな。大丈夫だよ別に。俺がなまえのこと面倒見るし。」
「は? 何言ってんの? 確かに近付いたのはそれがきっかけだけど別に今はそんなんじゃないし。むしろなんかいっつもま〜くんの影を感じて気になってたんだよねぇ……しょっちゅう連絡とってたみたいだし。」
「そりゃあなまえが何してるかはなるべく本人から聞きたいだろ? 」
「ま〜くんって変なところマメだよねぇ……。」
「お前こそな。血吸うんじゃないかって思ってヒヤヒヤしてたけど全然そんなことなかったし。」
「だって初めて会った時めっちゃ怖がってたからねぇ。俺無理矢理とかはあんまり好きじゃないの……。でもほんと毎回我慢すんの辛いんだよね。」

二人が楽しそうに会話をし始めている。しかし私は一ミリも理解ができなかった。ズリ、と体を後退させる。すると、真緒くんに掴まれていた腕が途端に痛んだ。

「いっ、」
「どこ行くんだ? 」
「ねぇどうすんの? これ。何とかしてよ。」
「わ、私に言われても、」
「今日ご両親は遅くなるんだよな? 」
「え。」
「今誰もいないんだよね?」
「は、」
「確かなまえの家族は今日は帰って来ないって、朝お母さんと喋っているのを俺は聞いたぞ? 」
「あ、そうなんだ〜。じゃあ別に良いよね。」
「せ、先輩、まおく、」

二人が話を全く聞いてくれない。何故こうなってしまったのか。私が家に入れたのがいけなかったのか。それとも私が凛月先輩と仲良くしだしたのが良くなかったのか。それとも私が真緒くんに恋慕を持ったことか、いやはたまた二人と出会ってしまったことか。

「ねぇ早く何とかしてよ。」

そんなことを彼らは考える暇も与えてくれないのであった。