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嘘も方便




4月1日。嘘をついてもいい日という外国から来た素晴らしい文化の日である。こんな日は乗っかるに限る。

「ちょっと、なまえ〜。喉乾いたから水とってきてよ。」

この勝手に人の部屋に入って我が物顔で寛いでいる憎き幼馴染をぎゃふんと言わせるにはちょうど良い日だ。お付き合いをした時から、昔から無いに等しかった遠慮というものが砕けに砕け、今じゃ毎日部屋に入り浸るようになった泉くんをきっと睨む。というか水くらい自分で入れて欲しい。冷蔵庫の位置も、コップがどこにあるかも分かるだろう。

「……何その反抗的な目。ちょ〜うざいんだけど! 」
「すぐそうやって人のことうざいとか言うのやめてよね! 水くらい自分で用意してよ。」
「あのさぁ、一応なまえの幼馴染で彼氏だけど、俺はお客さんでしょ? お客さんにはそれなりのおもてなしするのがマナーでしょ? はい、分かったら水入れてきて。」

そう言って泉くんは人のベッドの上でゴロゴロし始めた。めちゃくちゃ腹が立つ。この人は人の神経を逆なでする天才だと思う。人が怒っているのもつゆ知らず、泉くんは自分が表紙の雑誌をパラパラとめくり出した。雑誌の泉くんのキリッとした表情にも腹が立ってくる。全国の泉くんファンの皆さん、こいつはこんなかっこいいやつじゃありません。
そう思っていたところで、今日はエイプリルフールだと思い出した。泉くんをぎゃふんと言わせるには、今ここで何か嘘をつくしかないだろう。でも何が良いのだろうか。……そうだ。

「……泉くん。」
「なぁに? 」
「もうさ、こうやって泉くんと会えば喧嘩ばっかりしてるじゃん。いっつも泉くんは私のこと馬鹿にしてくるし。……もう私嫌だよ。泉くんなんか嫌い。」

言った! よし! 絶対泉くんびっくりしてるだろうな。ちょっとしたら嘘だよって言ってあっかんべーってしてやろう。いっつも馬鹿にされてるのは事実なのだ。たまにはこんな風にしても良いだろう。チラリと泉くんの顔を見る。しかし、私の予想とは違い、泉くんは真顔だった。あれ。

「……なまえがそう言うなら仕方ないね。」
「え? え? え? 」
「確かにずっと会えば口喧嘩してるし、なまえがそれで楽しくないんだったら良いよ。別れよう。」

そう言って急に立ち上がって、部屋から出て行こうとする泉くんに焦りがこみ上げる。え、嘘。ちょ、ちょっと。

「い、泉くん、ちょっと、ちょっと待って! ち、違うの!! 冗談だから! 嘘だから。 今日ってエイプリルフールでしょ?!! だからさ嘘吐いたの! 」
「うん知ってる。」

そう言ってすぐに泉くんが止まったので、私は泉くんの背中に鼻をぶつけてしまった。痛い。というか今この人なんて言った?鼻をさすりながら泉くんを見れば、完全にしたり顔だった。も、もしかして泉くんに騙されたのか。やられた。

「俺がエイプリルフール忘れるわけないじゃん、馬鹿なの? 」
「ば、馬鹿じゃないよ!! 」
「ていうか嘘つくの下手すぎでしょ。そんなバレバレの嘘ついてさ。」
「う、嘘じゃないかもしれないじゃん! 」
「じゃあ俺のこと嫌いなの? 」
「そ、それは……。」

泉くんがじっとこちらを見つめてきたので、変に緊張する。私が泉くんのこと嫌いなわけないだろう、だったら私に言わせようとしないで欲しい。恥ずかしくて顔が火照ってくる。

「へぇ〜嫌いなんだ。じゃあいいや。」
「ちょっ、帰ろうとしないでよ。」
「じゃあどうすんの。」
「……う、嘘ついてごめんなさい。」
「うん。で? 」
「……わ、私は泉くんのこと好きだから。嫌いじゃないから。」

恥ずかしくて堪らなくなって、泉くんの服を掴む。目を合わせてはいないが、何となく泉くんがニヤニヤしているのだけは分かった。くそ、むかつく。

「まぁ俺はなまえのこと嫌いだけどね。」
「え、ちょっと! 何それ! 」

泉くんは微笑みながら、私の頭をポンポンとして、顔タコみた〜い、と茶化してきた。そんな泉くんを見ていたら思った、来年のエイプリルフールはもっと仕込んでから挑もうと。