俺は海軍G5に所属する海兵だ。
今日はオフ。つまり仕事が無い休日なので私服で町をぶらぶら歩いてる。

俺ら海軍の休日の過ごし方は人それぞれだ。
例えばヴェルゴ基地長は病気の妹さんの様子を見に地元までひとっ飛び。家族が近くに住んでいるヤツは家族団らんだったり、日帰りでどこかに出かけたり。俺みたいな独り者は町を散策したり、賭場で遊んだり、昼間っから酒をかっ食らったり、それこそ普段の禁欲生活から解き放たれて娼婦としけ込むやつまで様々だ。

そんな俺たちが今一番気になっていること。

それは1年ほど前に異動してきたスモやんの休日の過ごし方だ。
大佐ちゃんは女の子らしくお買い物をしたり、ここに来てからできたお友達とカフェでランチしたりしている姿が確認されている。
しかし、スモやんは未だに分からない。
と言うよりは、スモやんが休日をエンジョイしている姿を誰も想像できないし、したくないのだ。
あの強面が町を散策か。賭場で賭けか。昼間から酒か。娼婦か。どれも似合わない。
だいたい、俺らがやってるような不健全極まりないことをあの人がするはずもないのだ。


ならばどうするか。
休日のスモやんを尾行すればいい。


尾行と言っても、中将だけあって、スモやんは耳が良いし気配にも敏感だ。最初から尾けていればバレるのは必至。だから、見かけた時に遠く離れたところから追跡するということになった。



そして今。俺はスモやんを見つけた。
初めて見たオフのスモやん。
私服は以外と普通だ。まず裸にジャケットではない。普通のハーフパンツに普通のシャツ。ただし、ボタンが3つ目くらいまで開いてる。
町の広場の噴水のベンチに座り、いつものように口に二本の葉巻を咥え、ぷかりぷかりと煙をはきだす。時間をちょこちょこ気にしているあたり、誰かと待ち合わせしているのだろう。相手は誰だろうと思案する。
しかし、相手が来るまで時間はありそうだ。ならスモやんが動くまで、周りの観察と行こう。

そうしてスモやんから視線を外すと、俺は素晴らしい方を見つけてしまった。


なまえちゃんだ。


彼女はG5派出所のわりと近くでカフェバーを経営している、若いオーナー兼シェフだ。
昼は安くてボリューミー、しかも美味しいランチを提供してくれるカフェに、夜は美味い酒とつまみを出してくれる小洒落たバーになるそこは海軍、一般市民問わず人気の店だ。
店主のなまえちゃんも美人で有名。06部隊みたいなやつらにもサービス精神を忘れず、優しく接してくれる。気立ても良く、求婚者が後を絶たない。


そんな彼女が今、俺の半径5m以内にいる。ああ、今日も可愛い。
そう言えばお店が定休日だったなと思い、彼女も誰かと待ち合わせか、という考えに至った。
よく見れば服装も化粧もいつもより気合が入っているように感じる。
いったい誰だ。彼女と待ち合わせしてる野郎は。因縁つけて俺が逮捕してやろうか。

そう思い、スモやんそっちのけでなまえちゃんを観察していると、待ち合わせ相手を見つけたのか、花が咲いたような笑顔を見せ、軽く手を振りながら走って行ってしまった。
相手は誰だと思い、彼女の走って行った方に目を向けると、そこにいたのは驚くべき人物だった。



スモやんだ。



なまえちゃんが駆け寄ったことに気が付き、立ち上がって彼女を迎え入れるスモやん。
因縁つけて逮捕してやるつもりが、むしろこっちが逮捕されそうだ。

なまえちゃんは相変わらず素敵な笑顔をスモやんに向けている。心なしか顔も赤い。
スモやんはスモやんで、いつもより数十倍も優しい表情でなまえちゃんの頭を、撫でた。
信じられない。

そりゃ確かにスモやんも優良物件だ。海軍GL支部の中将と言えば本部中将と同レベル。実力は折り紙つきだ。それなりに高給取りだし、顔だって甘いマスクとは言えないが、いわゆる強面で魅力を感じる人も少なくない。筋肉だってむきむきだ。
しかし、なまえちゃんに求婚していた男の多くは島でも有名なレディ・キラーだったり、桁外れの金持ちだったり、そんなやつらばかりだったのだ。
そいつらの求婚をなまえちゃんはことごとくお断りし、涙で枕を濡らす男も後を絶たなかったはずだ。
何があの2人をくっ付けたのか、非常に興味が出てきた。
並み居る屈強なライバルたちを押し退け、見事なまえちゃんを落としたのはスモやんだったのだから。



そんな事を考えているうちに、2人は手を繋いで歩き出した。
ミッション開始。2人の後を尾けることにする。


しかし、想像していたほど何かが起こるわけではなかった。
なまえちゃんは道行く常連さんに声をかけられたり、スモやんも以前助けた町の人に話しかけられたり。それから2人で話して、ちょろっと買い物をして、カフェで食事をして、夕方までぷらぷら歩いて今度は夕飯を食べていた。

キスすらしなかった。なんだ、結構プラトニックなのか。
まあ、ここでスモやんと憧れのマドンナなまえちゃんのキスシーンなんて見たくはないのだけど。


俺は2人が見えるギリギリの距離まで離れて観察していたが、ついになまえちゃんが経営するカフェバーまで着いてしまった。彼女は店の二階を住まいにしているから、スモやんがここまで彼女を送るのは当然だろう。
俺はそのまま、自宅に入るまでを見守ってから寮まで帰るのかと思っていた。
しかし、スモやんまでなまえちゃんの家に入ったではないか!

2人とも夕飯は既に済ませている。
つまりこれは、そういう事なのだろう。

これ以上の詮索は危険だ。

曲がりなりにも俺も海兵。引き際はわきまえている。

とにかく、早急に寮に帰って仲間との会議が必要だ。


全速力で駆け戻る。
寮の相部屋には既にルームメイトが帰ってきていた。



「なあ、お前ら聞いてくれよ!」


とあるG5海兵による報告
スモやんがデートしてた!
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