やばいやばいやばい。


私はキッチンで一人、出来上がったサラダを手に立ちすくんだ。本当にまずい。
何がやばくてまずいのか、順を追って説明しよう。


今日はオサムの誕生日で、あいつが一人暮らししているこの部屋にもうすぐ帰ってくる。
私はそこでサプライズ的な感じでご飯を作ってる。そこまではいい。計画通りだ。
やばくてまずいのはその先。ご飯を作るのに一生懸命になりすぎて、プレゼントを買ってない。

オサムはそういうのあんまり気にしないって思われがちだけど、実はそうでもない。
誕生日忘れられたら尋常じゃないくらいへこむし、プレゼントを忘れようものならそりゃもう目に見えて拗ねるのだ。下手すると2日は口を聞いてくれない。どこのガキだよって感じだけど、本当にそうなのだ。可愛いから許す。

いや、そうじゃなくて。どうしよう。今日はオサムが仕事から帰って来る前に部屋でご飯作って待機。食べ終わってからプレゼント渡してそのまま帰る予定だったのに。
このままだと手首か頭にリボンを結んで、「プレゼントはわ・た・し」とかやらなきゃいけなくなる。それだけは避けたい。
まず、そんなことする私が気持ち悪すぎて想像もしたくないし、オサムは結構えげつない性癖を持っているのだ。ねちっこいんです。あとは想像にお任せします。



その後、何かいい案が思いつくわけでもなく、オサムが帰って来てしまった。オサム本人の自宅に帰って来てしまったっていうのもおかしな話だけど、私的にはそういう気持ちで。


そして今。私はオサムのご機嫌取りに必死です。


「ねえ、オサム。本当にごめん。会うの久し振りやから手料理いっぱい食べさせたろーて思っとったら買うの忘れてしもて…」

「……」


だああああああ!もう!
何回話しかけても無視するし、ぶすっとしてて「僕今不機嫌です」オーラ醸し出してるし!

確かにプレゼント忘れたのは悪かったと思うけど、せっかく一緒にいれてるんだから楽しく過ごしたいじゃん。


「…オサム?」

「……」

「ねえ、本当にごめん。私、せっかく一緒にいるんやから楽しく過ごしたい。オサムが生まれた日やもん。どうしたら許してくれる?」


足を大きく広げてソファーに座るオサムに近づく。
顔を覗き込んでも目を逸らされる。ちょっと心折れそう。


「なあ、オサム。ほんま、何でもするから。」
「言うたな。」


はあっ?

急に顔上がりましたけど?さっきまでぶっすーとしてたのが突然シャキッとしてますけど?何でそんな目がキラキラしてるんですか?おい。


「言うたからな。なまえ今、何でもするー言うたからな。」



あ、言質取られました。



「いやー。なまえのこの一言の為に我慢した甲斐があったわー!」


はっはっはっ!と豪快に笑うオサムに目を白黒させる。
何?さっきまでのあのちょっと怖いオサムは演技ですか?そうですか。


「そういうの良くないですよオサムちゃん。」
「ええやんか、ちょっとくらい。俺誕生日やし。なぁー?プレゼント忘れたなまえちゃん。」

根に持ってるし…

「…しゃあないわ。何すればええの?」
「お、なんや聞き分けええやんか!ええ子のなまえに1こけしやろう!」
「いや、いらん。私がもらってどうすんねん」


まあ、言質取られてるし、仕方ない。
それに悪いのは私だ。


「ははっ!今のはちょっとぐさっと来たわ…さーて、何してもらおっかなー。」


こっちを見るオサムの目はなんだか獲物を狙うような…舌舐めずりするような…そんな目。
私の脳みそが危険信号を発している。これはもはや本能だ。


「…よっしゃ、決めたで。」
「何?」




「まずは一緒に風呂入ろか。」




「無理無理無理無理!!」
「何でや。」
「絶対なんかするやろ!」
「なんかって何や。ナニか?なまえちゃんはエロいなあ?」
「…っ!うるっさい!それに、私泊まるつもり無かったから着替えとか何も持ってへんし!」
「何でもする言うたやろ。それに下着やったら1ヶ月くらい前、いざという時のためにーとか言うてお前が買い置きしてったのがあるし、着替えならおれの着ればええやん。彼シャツ。」


1ヶ月前のじぶん死ね!ほんま何しとんねん!!


「ま、そういう訳やから。」


硬直する私をよそに、ものすごくいい笑顔で、調子っぱずれの鼻歌を歌いながら近づいてきたオサム。
諦めて彼に任せる。もうなんでもいいや。諦めよう。
そうしてオサムによってお姫様抱っこされてしまった。


「俺が洗ったるでー。外も中もみっちりな。」



もう駄目だ。


いただきます
美味しくいただかれました
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