私は決められたレールの上を走る、言わば電車のような生き方をしてきた。
いや、それしか生きていく道がなかった。
でもあの人は違った。私と同じような生まれのはずなのに、私とは全く違った。真逆と言っていいほどに。


自分が進みたい方向に自由に飛び回って、狙った好機は逃さない。
まるで鳥のような生き方。

類稀なカリスマ性。誰もが羨む美貌と稀有な才能。ひたむきな努力。


誰もがついて行きたいと思える、そんな生き方をする人。



「下ばかり見るな。たまには上を見てみろよ。お前が知らない世界が見えるぜ?」



屋上で変わらない自分の未来を憂うように地面を見下ろしていた私に彼はこう言った。


私が見たことのない世界を、彼の青い世界を、まるで私が経験したかのような感覚にさせてくれる彼に初めての感情を抱いた。
私は間違いなく彼に恋をした。



それだけじゃ、何がいけなかったのですか?



晴れて彼と恋人同士になれた私は、彼が語ってくれる世界の話に夢中で大事なこと、私の両親がどんな人間だったかを忘れていた。


大学卒業直後、突然婚約者の存在を知らされた。
私の両親はつまりそういう人間なのだ。
私に恋人がいようがいまいが、会社のため、家のためなら関係ない。
しょせん私はただの使い勝手のいい手駒。



結婚までは期間があった。その間、家から出ることは許されず、周りと連絡を取ることすら許してもらえなかった。


突然行方を眩ました私を、彼は怒っているだろうか?


そんな人ではないのはわかっている。ただ、この先何年生きても彼に再び会うことはできないのだろう。
こんなにも愛しているのに。



閉じ込められて数年経ったある日。結婚式の前日。彼に会わないことを約束に出かけることを許された。

たとえ彼に会っていいと言われたとしても、今の私には彼と連絡を取る術はない。連絡先すらもはやわからない。
本当は会いたい。一切会わずに長い時を過ごしても、彼に対する恋情は色褪せていない。


幾つかの思い出の場所を訪れた後、最期の場所と決めたのは初めて彼と出会った場所。



氷帝学園中等部校舎の屋上。



私の時とは違う校長先生が特別にそこに立ち入る許可を出してくれた。


忘れもしない。大切な思い出の場所。誰にも穢させない。



あの時と同じように地面を見下ろしてみた。
何年も経っているのに、私もこの場所も何一つ変わっていなくて、唯一違うのはあの人がここにいないこと。



結局変われなかった私はレールの上を走るしかない。
ならばいっそ、脱線してしまおう。



私はフェンスを乗り越えた。



あの校長先生には迷惑をかけてしまうが許して欲しい。



「なまえ!」



足を踏み出した瞬間、愛しいあの人に名前を呼ばれた気がした。


なんて贅沢なんでしょう!


飛び立って最期に見た景色は、あの人が語ってくれた広がる青い世界でした。


あの人の、青。
あなたの隣で飛んで見たかったのです
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