物心ついた時には母は病気で、父は既に他界していた。

通院しながら女手ひとつで母は私を育ててくれた。
大変だった。それでも毎日がとても幸せでこんな日が続けばいい。願わくは母の病気も完治させて。そんな風に思っていた。

だが現実は残酷だ。
通院では直しきれなかった母は遂に入院し、私は叔父夫婦の家に預けられた。毎日お見舞いに行った。
私に心配をかけないためか、母は絶対に泣かなかったし、悲しい顔なんてしなかった。それどころか、私に会うたびに花が開くような笑顔を見せてくれていた。

そんな母も亡くなったのは中学2年生の時。
奨学金で氷帝に通い、部活にも入らず、時間を母と一緒にいることに最大限に使っていた私は完全にもぬけの殻になっていた。


私を救ってくれたのは、1年生の時からそのカリスマ性で氷帝を統べていた跡部景吾だった。


保護者を失った私に叔父夫婦との養子縁組を勧めてくれ、申し訳ないことに経済的な援助もしてくれた。
打ち込めるものが無くなった私にテニス部のマネージャーという地位を与えてくれた。

それだけでなく、こんな私を恋人にしてくれた。

あの時から今まで、跡部にはたくさんの幸せをもらってきた。
私は少しでもあの人を幸せにできているのだろうか?


「俺様がお前を幸せにしたいと思ったんだ。それに何の不満がある」


私がそう聞いた時、跡部はこんな風に答えた。私が幸せなら自分も幸せで、さらにその私の幸せを作っているのが自分ならなおさらだ、と。


こんなにも素晴らしい人に愛されてるんだ。それだけで涙が出るくらいに嬉しかった。



なまえちゃんへ

この手紙を読んでいると言うことは、あなたも幸せになる準備ができたんですね。

おめでとう。

ママはあなたがお腹にきた時からずっとずっと幸せをもらっていました。ママは世界一の幸せ者でした。

今度はなまえちゃんの番。たくさんたくさん、幸せをもらってください。
そして、あなたが大切に思う人に幸せをあげてください。

誰よりも大事ななまえちゃんが、世界一の幸せ者になれますよう、心から願っています

ママより



入院中の母が、私が誰かと結婚することになったら読ませるようにと叔父に託した手紙。
母が遺した最期の願い。



「なまえ、時間だ。」
「今行く。」


お母さん


「…綺麗だ。」
「ふふ。ありがとう。跡部も素敵…本当に。」


私、この人と結婚するよ。


「今日からお前も跡部だ。」
「そっか。これからは景吾って呼ばなくちゃ。」


素敵な人でしょ?


「もう中学生のガキじゃない。口約束なんかじゃなく誓うぜ。一生お前を幸せにする。」
「…泣かせないでよ。バカ。」


お父さんと空から見ててね。


「嬉し泣きなら本望さ。」
「……幸せにしてね。」
「…ああ。」


ちょっと俺様で自信家だけど、それに見合う努力と実力。期待を裏切らない誠実さを持つ跡部景吾。
この世の誰よりも、私を幸せにしてくれる人。


隣に立つ夫となる人を見上げると、今まで見た中で一番優しい笑顔を見せてくれた。


幸せの贈りもの
優しく降ってきた口づけに、一生この人の隣を歩いて行くと誓った。
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