なまえと出会ってから数え切れない月日を過ごしてきた。
俺を見つめるなまえの瞳は変わらず愛しいものを見つめる瞳で、目が合うと照れて可愛い。
昔から長かった綺麗な茶色の髪も、子供の頃と比べてずいぶんシャープになった輪郭も、林檎のように赤くなる柔らかい頬も、キスしたくなる小さな唇も、抱き締めると感じる俺より少し高い体温も、何もかもが愛しくてたまらない。



中学2年で出会って、俺が病気になって折れそうになった時も勇気付けてくれた。優しくて、ちょっぴりふわふわした自慢の恋人。



今日はそんな彼女の誕生日だ。早生まれの俺より2ヶ月ちょっと早く迎える、年の瀬に生まれたなまえ。俺よりほんの少しだけ年上。


出会ってから過ごした期間は長いけど、いわゆる恋人関係になったのはもっと後になってから。
だから互いに祝った誕生日はまだ両手で数えられるほどだ。


初めて一緒に迎えた誕生日は、寒がりのなまえのためにふわふわのブランケットをプレゼントした。今でも大事にとっておいてくれて、たまに使ってるのを見かける。
それからお揃いのストラップとか、俺の独占欲の塊のアクセサリーとか、一度は一緒に年越しをした。

形あるプレゼントはたくさんあげてきた。もちろん、思い出と2人で積み重ねてきた時間は何よりも貴いけれど、それとはすこし違う。


念願の同棲は、娘をとても可愛がってるなまえの両親を説得してようやく叶った。
それから一年と少し。
そろそろ形のない物を贈るのもいいんじゃないだろうか。



年末で仕事も今日で終わり。自宅への帰り道、心を決めた。
なまえの事を考えると、自然と足が早まる。



「ただいま。」

家について少し鼻をきかせると、なまえの手料理のいい香りがした。


「お帰りなさい。」


エプロンで手を拭きながらスリッパをパタパタ鳴らしてなまえが玄関まできた。
エプロンだって俺のプレゼント。彼女の身の回りを自分が与えた物で埋めたいというのは、きっと一種の独占欲。


「はい、これ。ブン太に特別に作ってもらったバースデーケーキだよ。」
「わあ!嬉しい!本当に美味しいんだよね!元気そうだった?」
「ああ。ちょっとだけ疲れてそうだったけど、好きな事を仕事にできてるし元気だったよ。まあ、ブン太も人気出てきたしね。」
「うん。そんな人気パティシエに作ってもらえるなんて、嬉しいなあ。」
「あれ?そうなのか。ブン太のケーキが嬉しい、か…なら俺のプレゼントはもっと喜んでもらわなくちゃ。」


この年になってもまだ嫉妬するなんて知ったら、なまえは子供っぽいと笑うのだろうか。あり得ない。こんな俺を暖かく包み込んでくれる優しくて可愛い人。


「精ちゃんからのプレゼントは誰にもらった物より嬉しいよ!だって愛がたくさん詰まってるんだもの…」


少し顔を赤らめて、最後の方は小さく呟くように言ったけど、大丈夫。聞こえてるよ。


「そうか。俺の愛が伝わってるなら問題ないね。」


そう言ってまだ赤いなまえの頬に口付ける。
さらに赤くなったなまえを見て、自分の口角が上がるのがわかった。なまえはわかりやすい。


「よし。それじゃあなまえの誕生日をお祝いしようか。」


まだ赤い顔を手でぱたぱた扇いでいるなまえの手をとって、ようやくリビングに入る。
そして、2人きりの誕生日会が始まった。



「こうして過ごすのもずいぶん自然になってきたよね。」
「そうだね。初めの頃は2人とも緊張でカチカチだった。」
「嘘!精ちゃん平気な顔してたじゃん!」
「必死で隠してたんだ。俺だって好きな子の前では格好つけたいからね。内心焦ってたし、何話していいやら、ドキドキしてたんだ。」
「へえ、そうだったんだ。知らなかった。」
「もちろん。今初めて言ったからね。…あ、そろそろかな。」


ふと時計を見て言う。


「何が?」


ちょうどその時、インターホンが鳴った。


「うん。ちょっとだけ待ってて。」


なまえの頭を一撫でしてから玄関へ向かう。



宅配の荷物を受け取って、なまえの待つリビングに戻る。


「おかえりー。なぁに、それ?」
「これかい?プレゼント。ギリギリまで内緒にしたかったから配達してもらったんだ。」


そうして中身を取り出して手渡す。少し紫っぽいピンクの花。


「オドントグロッサムっていう花だよ。なまえの誕生花。花言葉は『特別な存在』。なまえは俺にとってかけがえのない大切な存在だから。これからもよろしく頼むよ。」
「ありがとう!精ちゃんにそう言ってもらえるの、すごく嬉しい…」


少し涙ぐんで受け取ってくれたなまえ。今からそんなんじゃもたないよ。
そう言うと少し不思議そうな顔をした。

なまえから花を預かって花瓶に差す。この花が一番長持ちするやり方で、きちんと処理をする。


そうしてなまえのもとに戻って他愛もない話をする。
こんな日常の幸せを永遠にしたい。



「…よし。ちゃんと言うよ。」


いざとなるとやっぱり緊張する。


「何を?」
「うん。しっかり聞いてて。」


ちょっとはぐらかして、なまえと向き合う。俺をまっすぐに見つめる瞳はきらきらと輝いて曇り一つない。


「俺たちが出会ってからずいぶん経ったよね。お互い支えて、支えられて、些細な日常の一つ一つが幸せで。一人暮らししてた時と今とじゃ比べ物にならない。家で君が待ってくれていると思うだけで頑張れるんだ。」
「うん、私も。」
「良かった。ねえ、俺はこの幸せを永遠にしたい。俺は今ここで、俺の命ある限り君の幸せを約束するよ。君に『幸村』をあげる。俺と結婚してくれませんか?」


驚いたように目を見開いて、ぱっと両手で口許を覆う。見開いた目には涙すら浮かんでる。


「ねえ、返事を聞かせて…」

囁くようにそう言って、なまえの左手をそっと手に取り、その薬指に指輪をはめる。


「もちろん、返事は『YES』か『はい』しか受け付けないけど。」


微笑むと、なまえの瞳から涙がぽろぽろ落ちてきて、それでも嬉しそうに笑って、小さくはい、と言って俺に抱きついてきた。
抱きしめ返したなまえはいつもよりちょっとだけ暖かかった。


命ある限り君の幸せを約束しよう
いつもより暖かかったのはきっと幸せのせい

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