今日も今日とて、なまえは部室のソファーに座っているのか寝ているのか判断のつかない、大変だらけた格好でいた。


その隣には寄り添うように座る財前の姿。
一年もそんな様子でいるのでさすがに慣れたが、始めの内は「あの財前が!」と、皆して興味津々で見ていたのだ。



「なあ、財前。」


おやつの時間になまえが作った本日のおやつ、たこ焼き(金ちゃんリクエスト)を頬張ってるときだった。



「お前、なんでそんなになまえに懐いとるんや。いつもいつも近いねん!!」


謙也が突然質問のような、文句のような事を言ってきた。


「なんでそんな事謙也さんに言わんとあかんのですか。まあ、教えたってもええですけど。」
「うっざ!上から目線うっざ!!」
「謙也落ち着きや…」


白石が止めに入る。
確かに、2人の距離は一般的な、男女関係にないもの同士の距離としてはとても近い。むしろくっついているに近い。


「せやけど、俺も気になるな〜。2人が仲ええ理由。」


財前が見回すと、一年の時の財前を知らない金太郎と千歳、それに事情を知らない白石をはじめ、レギュラー全員が2人に注目していた。



「なまえ先輩、なまえ先輩、俺が言うてもええですか?」
「んー?せっかくだから私が話したいなー。財前と仲良い自慢。いい?」


小首を傾げてそう言うなまえを内心可愛いと思いながらそれを顔に出さずに頷く。


「あのね〜…」




「今日から新しくこの部活に入った一年の財前光くんや!皆、仲よおしたってや!」
「どーも。財前です。よろしくしなくても結構です。」
「辛辣!」


白石が連れてきた天才少年の第一印象は読めない子、だった。

人の事は言えないが、一見すると不良にも見える左右の耳に着いてるピアス。取っ付きにくい雰囲気。自分のテリトリーを荒らすなと言わんばかりのオーラ。
侑士に近い何かを感じるけど、侑士のそれよりもっと鋭利な、刃物のような雰囲気を感じさせられた。
今まで出会ったことのないようなタイプの人。



その後すぐに練習開始となってしまったので、話すことができないまま時間を過ごした。
私自身ドリンクやタオルなどの準備など仕事もあったし、おやつもまだ作ってなかったからさっさと移動してしまったせいもあったけれど。



仕事がひと段落してから私が部室でおやつを作ってる時、誰かが部屋に入ってきた。


「何しとるんですか?」
「ああ、財前くん。だっけ?」


自分用のジョグに名前を書くためのペンを取りにきた財前くんだった。


「名前、覚えててくれはったんですか?ありがとうごさいます。で、何しとるんですか?」
「これはねー、今日のおやつを作っとるんよ。
白石から聞いてへん?ウチのテニス部にはおやつの時間があんねん。」
「今初めて知りました。」
「あら、部長の不手際やね。珍しい。ま、そういう事やから楽しみにしとって。作るのはいつも私やから。」
「へえー。上手いんですか、料理。」
「んー、まあね。こう見えても文化部は調理部。せや、丁度できたとこやし、財前くん初めてやし、先にちょっと食べてもええよ。」


みんなには内緒やで。そう言って差し出したのはできたての白玉善哉。


「!?」


差し出した瞬間に財前くんの目の色が変わった。すぐに落ち着きを取り戻したけど、彼の素の反応が見れたのはラッキーだと思った。案外素直な子なのかもしれない。


パクパク食べる財前くんを傍目に皆を呼ぶ。


「財前くん…」
「……はい?なんすか?」
「善哉…好き?」
「大好物っすわ。」


その時の白玉善哉を口に運ぶ財前くんの柔らかい表情は忘れられない。

その日から財前くんは私にとてもよく懐いてくれた。
最初に受けた刃物のような雰囲気は微塵も感じられなくなった。
入部初日で好物を食べさせてもらえた。しかも一番に。
それが大事らしい。誰に対してもツンツンしている財前くんが私にだけは懐いてくれていると言う事実は少なからず、私に優越感を与えていた。




「と、こんな感じ?」


一通り話し終えると意外そうな顔をしているものが多数。


「なんや、結構普通なんやな。」
「謙也さんうっとい。別にきっかけなんてどうでもええんです。大事なのは、俺がなまえ先輩の事を特別に思っとるっちゅーことっすわ。」


なんかええ事言うたなーなんて感心してる先輩達。
本当は特別どころの話やないですよ。今言うのは得策やないんで言わないですけど。そんな事を思ってるなんて誰も知らない。


「ざいぜーん。財前も私の特別だよー。」


眠たげな声をしたなまえ先輩が俺の頭をわしゃわしゃと撫で回す。
その手すら愛しくて、この先輩には叶わんなーと思う。

仕返しとばかりに先輩の頭を撫で、ついでに髪にキスしようとしたら謙也さんに怒られた。

残念ながら、愛しいその人はすでに夢の中だった。


鼓動
あなたに触れられるだけで高鳴る
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