今思えば、数分前の私は本当にバカだった。


「ほら、なまえ。自分からやる言うたんやから、はよせえや。」


今吉の薄い唇に挟まれた、やつが喋るたびにひょこひょこと動くそれ。
変に短くなってしまったポッキーが恨めしい。



「本当に無理だって!私から顔近づけるの無理!」



元はと言えば、自分からポッキーゲームやろう!と声をかけたにもかかわらず、いざ始めようとしたらとても恥ずかしくなってしまい、さっさと終わらせようと私が中途半端に折ってしまったのが原因なのだ。


やろうなんて言わなきゃ良かった。



「ええやん。自分からキスする練習にもなるしなあ。」
「ひッ!そんなの絶対に無理!!」


無理なものは無理だ。こいつイケメンすぎる。離れてるこの状態でも目を合わせるのは羞恥心に見舞われるのだ。
その旨を伝えると、しゃあないなあ、と言いつつ咥えていた残りのポッキーを食べた。


ようやく安心して、ほっと一息ついた途端に今吉に抱き寄せられた。

突然の事に驚き、体が反応できず、今吉にされるがままにキスをされた。



「…ッん、ふ…っはぁ!何すんの!バカ!」
「何って…キス以外になんかあるん?」
「そうじゃなくて!いきなりキスするのやめてよ!」
「なまえからやってくれればいきなりする事も無いと思うんやけどなあ。」


なんでそうなるんだこの男は!


「やだ。もう今吉とちゅーしない。」


不貞腐れてそっぽを向いた私の頬を大きな両手で挟み、私の唇に自分のそれを押し付ける。

さっきの食べるようなキスじゃなくて、ちゅーと呼ぶのに相応しいような、ただ唇を押し付けるだけのキス。


「ワシとちゅーしたくないん?ワシはしたいんやけどなあ。」
「いやだってば。離しなさいよ!」


そう言ったにもかかわらず、今吉は唇を再び押し当て、


「い や や」


そのまま一文字ずつ区切ってつぶやいた。声の調子から笑っているのがわかる。
今吉にキスされると結果的に流されるし、それまでのやりとりは大概忘れてしまう。溺れるようなキスと言うのに相応しいそれが、正直苦手なのだ。
溺れて、戻ってこれなくなりそうになる。
でも、流されてしまう。今吉は人を自分のペースに巻き込むのがとても上手い。


今だってそうだ。
さっきまで嫌がってたキスを私は普通に受け入れてる。
最初は啄ばむようにちゅ、ちゅ、と。そのうちに深いものに変わって。


今吉に食べられてるみたいだ。


それはそれで悪くないと思うのは、もう末期だからだろうか。



長いキスが終わって今吉が一言。



「さて。もっかいポッキーゲーム、やろか。」


死刑宣告だった。


ポッキー味のキス
let's shaer pocky!
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