私の初恋は中学2年生の時、同じクラスになったバスケ部の男の子だった。


1年生の時、幼馴染の友里恵ちゃんが好きになった人ー残念ながらフラれてしまったらしいけどーだから名前だけは知っていた。


席替えで隣になった彼と初めて話した時、桁違いに頭がいい事に気がついた。勉強を教えてもらったりした事も少なくない。

いつもドキドキして、彼の言動に勝手に振り回されて。私の些細な変化にも気づいてくれたのが嬉しかった事を今でも憶えてる。


中学3年生。クラス替えで別のクラスになった。
それでも気持ちが冷めることは無かったし、普通に仲も良かったから話す機会は十分にあった。


放課後、体育館は幾つかの部活で順番に使っていたのでバスケ部が外のコートで練習している日があった。
吹奏楽部でフルートをやっていた私は後輩たちに申し訳ないと思いつつも、その日だけは窓からこっそり見ていた。


夏休み明け、県大会で無念の敗退を喫した私達は引退し、受験勉強を始めた。彼に勉強を教えてもらった事を思い出しながら、またいつか教えて欲しいと願った。

10月。私は家だと上手く集中できないという理由で、教室で遅くまで勉強していた。
そんなある日、帰り際の彼と遭遇した。

「ほなな。」

彼が友人に言った。

「無視せんといてや。」

笑い混じりに言った彼に目を向けると、彼の友人に言ったと思われたそれは、私に向けられていたらしかった。
それがどうしようもなく嬉しくて、らしくもなく友人達に報告したのはいい思い出だ。



結局、在学中彼に想いを伝える事は無かった。
ただ、卒業式の後のクラス会の最中にこっそり告白のメールを送った。
単純に想いを伝えるだけ。好きと言うだけ。別に付き合えなくても良いのだ。いつか別れるのは辛い。

そうして、いつの間にか疎遠になった彼とはかれこれ10年接触していなかった。



その彼、今吉翔一がなぜ目の前にいるのか。しかもなぜ合コンに私は参加しているのか。


事は数10分前に及ぶ。


「なまえ!今日飲みに行かない?」
「ごめん!今日中学の友達と飲む約束してて…」
「そっか、じゃあまた今度!飲みに行こ!」


あれから10年。彼ほど好きになれる人はいなかったけれど、それなりに彼氏がいたりもした。
高校時代から付き合っていた彼に長い間、二股かけられていた事が発覚し、私から別れを切り出したのは記憶に新しい。


「なまえー!こっちこっち!!」


中学高校と同じだった莉奈と真理子。高校は離れてしまった綾乃。久しぶりに会った友人達は過去の彼女達よりずいぶん綺麗になっていた。


「さてさて、ついに内田くんと別れてフリーになったなまえちゃん。今日はこれから合コンに行きます!」
「ちょ、真理子!?何それ!聞いてないんだけど!!飲みに行くんじゃないの!?」
「飲むわよ?」
「確かにそうだけど!」
「だってなまえ、あんた合コンなんて言ったら絶対来なかったでしょ。」
「当たり前でしょ!」
「大丈夫よ!いい人達だから。私の高校の時の友達と莉奈の大学の友達だから。」
「綾乃と莉奈の?」
「そ。たぶんもう待ってるから行くわよ!」


半ば無理矢理連れて来られたお店で待っていたのは、見知らぬ4人の男性…のはずだった。


それぞれ自己紹介していき、4人のうち、3人は名前がわかった(森山くんと伊月くんと高尾くん)。
最後の1人に目を向けると何となく見覚えがある気がした。

「今吉翔一です。一応これでも勤務医やっとります。よろしゅう」

「え…今吉…」

偶然の再会を果たしてしまった。


それから話して行くうちにだんだん打ち解けて、森山くんと伊月くんがすごく残念なイケメンと言う事と、高尾くんがやたらハイスペックと言う事がわかった。
今吉は相変わらずの頭脳で仕事も上手くいってるらしい。



「よし!じゃあ2軒目行きますか!」


ノリノリの真理子の掛け声で移動する事になったけど…


「みょうじ…こっち来い。」

ひっそりと耳打ちされるや否や、手を引かれてみんなとは反対の方へ歩き出した。
要するに2人で抜け出したわけだ。


「久しぶりだね。」
「せやな。」


ちょっとした世間話とお互いの近況を話しているうちにずいぶん離れたところに着いた。


「ねえ、どこに…」
「なあ、みょうじ。


私の言葉を遮るように今吉が話しだす。


「今、相手おらんやろ?」
「まあ、いないけど…それがどうかした?」


このまま2人でいたら小さな火種のようだった昔の恋心が燃え上がてしまいそうだ。


「ワシな、中学卒業した後からずっと彼女おらんのや。」
「え、そうなの?あんなにモテてたのに。」
「せや。中学の時の好きなやつがずっと忘れられんでな。」


いたんだ。好きな人。


「そいつは昔ワシに告白してきたやつの幼馴染で、2年間ずっと片想いしてくれとったのに卒業式の後に告白してきよって。付き合わんでええから、気持ちだけ知っといて欲しいってな。」
「それ…」


私の行動とあまりによく似ている、今吉の好きな人。


「その後からワシはずっとタイミング狙って、絶対将来一緒になれるように告白しようと思っとったんやけど、どう思う?」
「どうって…いいんじゃない?それは今吉の方がよくわかってると思う。」
「そか。ならええわ。」


ずっとゆっくり歩きながら話していた今吉が立ち止まって、つられて私も止まった。


「ワシの心は昔から変わらずお前に掴まれとる。せやから、結婚を前提に付き合うてください。」


私の胸の中で温かい何かが広がった。ずっとあった火種が燃え上がるのを感じる。


「私…?」

「そう。お前や、なまえ…もっとも、その表情と態度で返事は丸わかりやけどな。」


そう言った今吉…いや、翔一は私の両頬をその大きな手で挟んで上を向かせると、とても優しく、慈しみを込めたキスを施してくれた。


君は策士
(ワシは愛の安売りはせえへんけど)
(うん)
(愛しとるで、なまえ…)
(ふ、不意打ちは、ずるい)
(そら、ワシやから)
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