再会のおやつ時

沖田香耶side



「おかあさん、ちづるちゃんから、ふみです」

「これはご丁寧にどうもありがとう、礼司」

私は息子に向かってへらっと笑った。
たたまれた半紙を受け取って礼司にお駄賃を渡す。お駄賃は……まぁ、銭のときもあるけど、今日は手作りの飴。

「歩きながら食べないでね」

「どうしてですか?」

「飴に棒がついてるでしょう。くわえたままぶつかったり転んだりしたら咽に刺さってしまうかもしれないから、危ないんだよ」

「しんじゃうかもしれないですか?」

「そうだね」

私は袂に隠してあった別の棒つき飴をくわえる。そして礼司の前で土間のほうきを手に取った。

「あ! おかあさん!!」

礼司はそれに仰天して私の脚にしがみついた。

「しんじゃいます!」

死んじゃいやだと仕舞いには泣きじゃくってしまった礼司に、少し意地悪しすぎたかな、と反省。
死んだらひとはどうなるのか、周りがどうなるのか、礼司は漠然とだけどちゃんと理解していて。
私はしゃがんで彼に視線を合わせ、棒を口から出してみせた。

「ね。危ないでしょ?」

こくんとうなずいて涙を拭く。礼司は素直で可愛い。マジ天使。

「縁側で一緒に食べようよ」

「はい」



数えで五歳の礼司は、周囲が心配していたような悪ガキとは程遠い、素直で感受性豊かな子に育っている。
っていうか、私や総司君の性格が歪んでるのは、過去に色々ありすぎたからなんだよな。きっと。
礼司は何も知らないから天使なんだ。

このまま紳士に育ってくれたらいいよ……。総司君がこの子に余計なこと教えなければね。

ふたり並んで縁側に腰掛け、先ほど礼司が届けてくれた手紙を開けてみる。

「……へぇ」

「……なんてかいてあったんですか?」

手紙に目を通し、にやりと笑みを浮かべた私に、礼司が若干引きぎみでたずねてきた。

「この里に仲間が増えるかも」

「えっ、ほんとうですか!?」

千鶴ちゃんからの文というより道場サイドからの業務連絡だ。
手紙には、近いうちにこの里に戊辰戦争終結以来のとある人物が合流するとあった。……ここまで言えば誰か分かっちゃうかな。

「おかあさんのおともだちですか」

「そうだよ」

「おとこですか、おんなですか」

「え。男だけど……ちょっと、総司君みたいなこと聞かないでよ」

「おかあさん、おとうさんやぼくをすてて、べつのおとこのところにいかないで……」

「え! なにそのセリフ、総司君だよね!? なに吹き込まれてんの!!?」

だめだ。奴はいちどシバいてこなくちゃ。礼司の将来のために。
私は拳を硬く握りしめて、縁側から立ち上がった。




「……あ!」

「お久しぶりです、月神君」

「烝君ー!」

礼司を連れて、意気揚々と家を飛び出し道場に向かうと、そこには数年ぶりに見る烝君の顔があった。

烝君は函館戦争で新選組と共に降伏し、謹慎生活を送っているはずだった。だけど数年が経ちほとぼりも冷め、緩くなった新政府軍の監視をかいくぐって私たちの隠れ里に合流したのだ。



「ねえ、『月神君』って呼び方はおかしくない?」

「総……ぐえっ」

すかさず総司君は私の後ろに抱きついてきた。それでも私は繋いでる礼司の左手は離さない。
それを見て烝君は、普段めったに変えない表情を驚愕に染めた。

「……沖田さんの子供ですか」

「「まぁね〜」」

私の横にぴったり寄り添っていた、自慢の可愛い礼司を烝君の前に出す。

「礼司、自己紹介してください」

「おきたれいじ、です」

かわえェェ……たどたどしく挨拶する礼司にすりすりしたくなった。
……いままでさんざん総司君を親ばかだとか言ってきたけど、私も相当だ。あんまり手のかからない子だし、今がかわいい盛りだからね。

「……山崎烝だ。よろしく頼む」

烝君も目を逸らして自分の中の何かと戦っていた。総司君と仲の悪かった烝君は、この見た目まんま総司jrな礼司を見て複雑な表情だ。

しばし硬直していた烝君は、ふと思い出したように私に視線を向けた。

「それでは貴女の名前も……」

「そうだよ。沖田香耶になりました」

「そうですか……おめでとうございます」

あいかわらずの無表情で、祝われてる気がしない。……けど、私はありがとうと微笑んだ。

その後、礼司は何が気に入ったのか烝君にまとわりついて離れず、彼の行くところに引っ付いていってしまった。

さて、私も私に引っ付いて離れない大きな子供と話をしようか。

(2012/12/14)

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