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雪村千鶴side
「薫君と千鶴ちゃんはどうする?」
「えっ?」
急に話を振ってくるものだから、私はびっくりして顔を上げた。
そこにあるのは香耶さんの優しい笑顔で。
「俺も西の鬼と同じだ。……俺は、俺に賛同する者だけを連れて姿を消す」
それはきっと、多くはないのだろうと思った。薫は南雲家で自分を虐げたひとを斬り捨てて成り上がったと聞いたから。
「千鶴ちゃんは、薫君と一緒に行ってもいいんだよ」
「私……」
香耶さんの顔を見ればわかる。彼女は私を疎ましく思って言ってるんじゃないって。
皆と行くか、生き別れた家族と暮らすか、という選択を私にくれているんだ。
それはきっと、どちらも幸せな道で。
そしてすこし寂しい道。
ぐるりと周りを見回すと、みんなの視線が私に集中していて。
「みんなといたいです……迷惑じゃなければ」
「迷惑なわけねえじゃん!」
「だな」
「うん。もちろん!」
香耶さんはいつかのように、左手で私を、右手で薫の頭を撫でる。
両手で私たちを優しく抱きしめるその腕に、私たちは吸い込まれるように納まった。
その優しくて柔らかい温もりに包まれて。
もう記憶にもない母親の存在を彼女に感じて、胸が熱くなった。
風間さん、天霧さん、お千ちゃん、君菊さん、そして薫は、私たちと別れを惜しんで、それぞれの道を歩き去っていった。
美しい青空を見上げれば、新選組がたどってきた険しい道を思い出す。
どんな危機に直面しても、決して諦めず前を向いて歩き続けた。
「私たちも行こうか」
「はい!」
そして、これからも。
「……さて。何かやり残したことはあったかな」
「あ! 香耶さん、僕あるよ」
「え、何?」
「祝言。僕と香耶さんの」
「あ」
「……ねぇ。なんでいつも忘れるの?」
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